
消費者がインターネットを使うことで、価格比較が簡単にできるようになったため、価格設定はこれまでよりも重要になりました。その一方で「競合他社が自社よりも安くサービスを展開している」「価格を下げたいけれど経営に支障が出る」など、非常に繊細な問題と化しており、適切な価格を設定すること自体が難しいです。
そこで注目されているのがダイナミックプライシングによる価格を変動させる仕組みです。ダイナミックプライシングを活用すればこれまでよりも手間をかけずに最適な価格設定ができるようになります。
今回は、ダイナミックプライシングの概要や仕組み、企業・消費者のメリットとデメリットを解説します。最後に実際の活用事例も掲載しているため、ぜひ参考にしてみてください。
ダイナミックプライシングとは
ダイナミックプライシング(Dynamic Pricing)とは、消費者の需要と供給のバランスに合わせて商品やサービスの価格を変動させる仕組みです。ダイナミックプライシングを導入している代表的な例として旅行業界があります。旅館の宿泊費や航空券の料金は、観光シーズンになると平時よりも高値になりますが、平日や雨季などの閑散期は安値に設定されていることがほとんどです。ダイナミックプライシングは、需要と供給の変化が激しい場合に、適切な価格を設定することで利益の向上や売上の改善に役立ちます。
ダイナミックプライシングの仕組み
ダイナミックプライシングは「データ収集」「需要予測」「価格設定」の3つのプロセスから成り立ちます。
最適な価格を算出するためには、月別売上や顧客動向、固定費、変動費など、様々なデータを組み合わせて分析する必要があります。これまでは、データ収集から分析までの一連の作業を手動で対応していました。手動ではデータ収集が不完全だったり、誤った分析結果を算出してしまい、利益が出ない可能性がありました。
そこで活躍するのがAIやビッグデータの活用です。AIやビッグデータが普及して以来、データ収集から分析まで自動化でき、商品在庫やトレンド、天候、イベント状況など様々なデータを複合して分析することで、より最適な価格を導き出せるようになりました。
ダイナミックプライシングのメリット・デメリット
ダイナミックプライシングは、企業側と消費者側の双方にメリットとデメリットがあります。それぞれを表にまとめてみました。
企業のメリット・デメリット
企業側のメリットは、収益の最大化を図りやすく、需要と供給のバランス維持によって、商品在庫やサービス提供のための人的リソースを最適化できることです。消費者のニーズは常に変動するため、在庫の確保や人員体制などは過去のデータを参考に考慮する必要があります。ダイナミックプライシングであれば、様々なデータを組み合わせて最適な在庫数・人員を配置できるため、余剰在庫を抱えるリスクや人件費の削減にも貢献します。
一方のデメリットとして、商品やサービスに対するユーザ離れのリスクがあります。ダイナミックプライシングを導入したからと言って、利益が向上するとは限りません。デジタル技術が進んだ現在の社会では、多様なサービスで溢れているため、消費者のニーズを満たすサービスが他社から展開されているでしょう。ユーザの選択肢が広がる中、需要が高い時期と低い時期での価格差が激しい場合は、ユーザ離れに繋がるリスクが高まってしまいます。

消費者のメリット・デメリット
消費者側のメリットは、購入タイミングを合わせることで、通常よりもリーズナブルに商品を手にすることができます。ダイナミックプライシングによって、高騰しやすい商品でも転売目的で購入される事態を防ぐことに繋がるでしょう。
一方のデメリットとして、欲しい商品や受けたいサービスがこれまでよりも高騰するリスクがあります。ダイナミックプライシングはAIやビッグデータによって行われるため、値上がった理由が不透明になってしまい、価格操作の疑念が生まれる可能性があります。

ダイナミックプライシングの事例
電動車の充電シフト実証検証
ここ数年で定期的に行われているのが、電動車の充電シフトの実証検証です。将来的な電動車の普及拡大に備え、電動車の充電時間が集中することで電力への負荷増大を回避するために行われています。ダイナミックプライシングで電気料金を変動させることで、効率的な充電時間のシフト実証を行い、ユーザビリティの向上や遠隔充電サービスの展開を検証することを目的としています。
経済産業省(資源エネルギー庁)の「令和3年度 蓄電池等の分散型エネルギーリソースを活用した次世代技術構築実証事業費補助金(ダイナミックプライシングによる電動車の充電シフト実証事業)」により採択された企業を中心に実証が進んでいる分野です。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン
今では大人気のアミューズメント施設であるユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は、2000年代に入場者数が減少したことをきっかけに、2019年1月にダイナミックプライシングを導入しました。同社では「変動価格制」と呼ばれており、数ヶ月先の価格を事前決定することで、パークとしての価値追求と繁閑差の平準化を図っています。
ローソン
大手コンビニチェーンのローソンでは、食品ロスの削減に向けた取り組みとしてダイナミックプライシングを試験導入しました。商品に電子タグ(RFID)をつけ、それを指定のリーダーで読み取ることで消費期限が近い商品を特定し、LINEアカウントを経由して消費者に通知します。通知された商品を購入すると、LINEポイントが還元されるといった仕組みです。
まとめ
今回は、ダイナミックプライシングの概要や仕組み、企業・消費者のメリットとデメリット、実際の活用事例を解説しました。ダイナミックプライシングは企業・消費者ともに大きなメリットがありますが、その反面、デメリットも大きいため過剰なダイナミックプライシングに注意しましょう。