
時代の変化と共に、ビジネスの在り方も変わってきています。特にテクノロジー化、グローバル化などで新たな事業を展開した企業も多いでしょう。そんなビジネスの変化によって、リスクは多様化してきています。多様なリスクに対処するためには「リスクマネジメント」が大切になってきます。「リスクマネジメント」とは具体的にどのようなことをいうのでしょうか?
本記事ではリスクマネジメントの意味から多様化しているリスクの種類、対処法をご紹介します。
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは、想定されるリスクに対して事前に把握し、リスク発生による損失の回避、または最小限に抑えるために管理する経営管理手法のひとつです。
例えば食品を取り扱う企業が、異物混入による企業イメージ低下を回避するために、衛生管理を徹底したり社員教育をすることもリスクマネジメントのひとつです。
すでに大手企業はリスクマネジメントを始めているところも多いと思いますが、IT技術の進歩によって多様化しているリスクは中小企業にも影響を及ぼしています。そのため、全ての企業がリスクマネジメントに取り組む必要があります。
リスクマネジメントと危機管理との違い
危機管理は英語で「クライシスマネジメント」と言います。危機管理は「危機が起こった後の対処」であり、すでに発生してしまった危機に対して早めに対処することでその影響を最小限に抑え、正常状態に戻すための管理手法です。
例えば、食品を取り扱う企業の商品の中に異物混入が発覚した場合、専用の消費者窓口設置や対象商品を素早く回収する体制をつくることは危機管理のひとつです。
リスクマネジメントと危機管理を一体のものとして考えることで、リスク回避と、回避できなかった際の最善の対策を具体的に打つことができます。
リスクの種類
- マイナスのみのリスク
偶発的な事故によるものや人為的なミスによるリスクは企業にとって損失しかなく、何の利益もありません。リスクに繋がる起因の主な例として、以下の3つが挙げられます。- 自然災害
地震や台風、火災などによる財産の損失があるリスクです。例えば、地震によって機材破損などがあります。 - 事故
経営者や従業員の病床、死亡などにより経営やプロジェクトが滞ってしまうリスクです。例えば、従業員の急な長期入院によって進行中のプロジェクトの引継ぎがされなかった場合、取引先にも迷惑をかけてしまうことがあります。 - 人為的ミス
不注意やミスによる過失で企業イメージの低下、時には法的損害賠償責任を請け負うことがあります。例えば、自社で運営しているSNSアカウントで発言した投稿が炎上して企業イメージが下がり商品の売上が下がることがあります。一度でもSNSで炎上すると、イメージ回復のために大規模なコストが必要になることもあります。
- 自然災害
- マイナスにもプラスにもなるリスク
政治的、経済的変化による変動や環境変化に伴うもので、マイナスの影響を受ける企業もいればプラスの影響を受ける企業もいます。リスクに繋がる起因の主な例としては以下の3つが挙げられます。- 為替の変化
海外為替の暴落や上昇により、外国通貨を利用している企業の利益が変動してしまうリスクです。例えば、円高になった時は輸入商品を取り扱っている企業は利益がプラスに、輸出をしている企業は利益がマイナスになることがあります。 - 政治情勢の変更
新しい政策や規制の変更、消費者の嗜好や動向の変化により景気の風向きが変わるリスクです。例えば、これまでは規制されていた海外部品を輸入できることになり、より安い部品で製品をつくることができる企業もいれば、それが理由で同等の部品の利益が下がる企業もいます。日本国内の政策変更だけではなく海外に拠点を置いている企業にとっては海外の政策変更も同様に影響を受けます。 - 法的リスク
税率の改正や法律、条例の変更によって利益を得るチャンスが変わってしまうリスクです。
例えば、2019年の消費税率変更によってテイクアウトなら8%、イートインなら10%となった結果、イートインの利益が減ってしまった、という飲食店がいる一方、テイクアウトをメインで行っていた企業の利益がプラスになっていることもあります。
- 為替の変化
リスクマネジメントのプロセス
- リスクを把握する
考え得るリスクを挙げていきます。リスクの種類は様々なので、リスクを多面的に洗い出すためには管理者から現場担当者まで幅広い職種の従業員からヒアリングをする必要があります。あまり起きないだろう、と無意識に放置されていた小さなリスクでも大きな損害に繋がることがあるのでリストアップしておきましょう。 - リスクを分析する
洗い出したリスクの重要レベルを分析します。ひとつひとつのリスクの「発生確率」、発生したときの「影響力」を特定し、その2つを掛け合わせてリスクの重要レベルをつけていきます。すべてのリスクにおいて発生確率と影響力を定量化するのは難しいですが、様々なリスクと比較をしながらそれらを数値化し、分析していきましょう。 - リスクを評価する
分析したリスクをグラフで可視化します。「発生確率」を縦軸、「影響力」を横軸にとり可視化することで、発生確率が高く影響力の大きいリスクが一見してわかるようになり、リスクの優先度がつけられます。ただし、「発生確率」と「影響力」だけを重要視するわけではなく、それぞれのリスクへの対応難易度も考慮し、即座に対応できるものであれば中程度のリスクであっても優先的に対応することを検討するとよいでしょう。 - 対処法の立案
それぞれのリスクに対して対処法を立案します。リスクマネジメントには「低減」「移転」「許容」「回避」の4つの方法があります。
軽減:リスクの影響力を下げる
移転:リスクの影響を第三者に移す
許容:リスクの影響が許容内の場合何も行わず、受け入れる
回避:リスクが発生する原因を取り除く
4つをみると、全てのリスクを「回避」できれば一番よいのですが、どのリスクに対してどんな対応をしていくかは、対応コストも考えて「コスト>リスクの損害」となるようであればいったん許容していくのもひとつの手です。 - 実施
立案したリスク対処を実施していきます。そのために効果的なリスクマネジメントプログラムを設計したうえで実施をしていくことが大切です。リスクマネジメントプログラムに沿って実施できているかを確認するために、内部監査などが定期的に監視することも必要となります。
近年増えているリスクに対応するには
リスクは以前から多く存在していましたが、テクノロジーの発展によって、これまで想定していなかったリスクも増えています。インターネットの普及、スマートフォンの普及、キャッシュレス決済などすでに日常となっているので気に留めないことも多いですが、これらの日常の変化にもリスクは潜んでいます。
リスクに関して、テクノロジーの発展は企業にマイナスを与える可能性もありますが、テクノロジーを使ってリスクマネジメントをしていくこともできます。例えば日頃の変化にすぐ気づけるよう法改正や為替の変化などの情報収集をスクレイピング等の技術で自動化し、「軽減」または「回避」することにもテクノロジーを活用することができます。最近はSNSによる企業イメージの低下やそれが原因となった訴訟などSNSに関するリスクも増えています。SNSによるリスクマネジメントはSNS分析といったそのリスク対応に特化したツールやサービスを提供する企業も増えているので、自社でシステム開発が難しい場合はツールやサービスをうまく活用していくとよいでしょう。
テクノロジーの発展をうまく利用して、リスクマネジメントをしていくことが変化が激しい現代において最も効果的といえるでしょう。