農業DXとは?必要性や現状と課題、活用事例を解説
各産業でDXが推進されており、農業においても例外ではありません。逆に、農業の現状を鑑みると、他の産業よりも優先してDXに取り組むべきです。今回は、農業DXを優先して取り組む必要がある背景、各分野における現状と課題、農業DXの取り組み事例を解説します。
農業DXとは
農業DXは、農林水産省が提唱している「農業DX構想」に基づいて実施されるDXを指します。農業DX構想は、食料・農業・農村基本計画において、デジタル技術を活用したデータ駆動による農業経営を軸に、消費者のニーズに対応した価値を想像・提供する農業への変革を進める構想です。農業はもちろんのこと、食関連産業まで適用対象なので、生産現場から流通、食品製造までの一連の流れがDXにより、それぞれの立場で変化に応じた柔軟な動きが実現できます。
農業DXは2030年を目処に、多種多様なプロジェクトをデジタル技術の進歩や農業構造の変化等に応じて機械的に実行できることが農業DXの極致です。
農業DXの背景

農業DXが必要になった背景に農業者の高齢化・労働力不足が挙げられます。古来から農業従事者は新規就労者が少なく、慢性的な労働力不足に苛まれてきました。
令和2年には、基幹的農業従事者の平均年齢は67.8歳であり、うち65歳以上の割合は約7割に達しています。

農業は人手に頼る部分が多く、従来通りの生産スタイルを継続する限り、今後も同等の生産基準を維持することも難しくなります。また、農地や農業施設などの生産基盤の維持も難しいことも予見できます。このサイクルから脱却するために、デジタル技術を取り入れ、労働力不足に対応できる生産スタイルへ移行することが求められています。
農業DXは他の産業よりも優先して進めるべき
農業は他の産業よりもデジタル技術の活用が遅れています。現在でさえ、基幹的農業従事者の高齢化は進んでおり、今後、基幹的農業従事者の相当数のリタイアが懸念されます。農業DXが実現できなければ、高品質の農産物が店舗や消費者に渡ることがなくなり、耕作放棄地の増える原因にも繋がります。デジタル技術を導入し、データ活用を駆使することで、高品質の農産物が提供できる体制を整えることが重要です。
農業・食関連産業分野におけるデジタル技術活用の現状と課題
農業・食関連産業分野のそれぞれにおけるデジタル技術活用の現状と課題を解説します。

生産現場
全国179地区で、スマート農業の現場実証を進めており、その他の地区やインフラの整備などの本格的な社会実装はこれから実施されます。しかし、データ活用を駆使して農業を行っている農業経営体は全体の2割弱で、データ活用を軸とした経営改善には、まだまだ課題が残ります。
流通・消費
農産物物流の効率化・自動化に関しては、他の産業で進められている共同輸送や混載、最適な輸送ルートの自動選択などと比較すると、農業分野ではまだ限定的です。近年では、インターネット通販による消費者と農業者を直結したルートは増えていますが、それ以外での生産・販売を展開している例は少ないです。
食品製造業・外食産業
AIやロボット技術の発展により、食品製造等の様々な場面で作業の自動化が期待されます。
世界的な観点では、人口に対する食料供給が追いついていません。食糧不足を解決するために代替タンパクや機能性食品、新素材を活用した食品製造などを行うフードテック事業者も増えています。
行政事務
農水省が所管する行政手続きや補助金・交付金の申請などは、記入項目や必要書類が非常に多く、手作業による審査が中心です。一つ一つが農業従事者や政府関係者の負担になっていることから、一刻も早く農林水産省共通申請サービス(eMAFF)によるオンライン化が必要です。
農業DXの事例
農業DXの取り組みが進んでいる事例を2つ紹介します。
有限会社横田農場
横田農場では、IT技術を活用したほ場管理や、機械1台体系での作業管理を行い、低コスト生産を実現しました。農地集積や大区画化に併せて、スマートフォンで遠隔地からも操作可能な自動給水システム、ほ場管理システムの導入により作業効率が大きく改善されました。田植機やコンバイン各1台体系での作業を徹底し、生産コストを全国平均の約半分と大幅なコスト削減を実現しました。
株式会社ビビッドガーデン
株式会社ビビッドガーデンは、生産者が消費者・飲食店に直接生産物を販売できるプラットフォーム「食ベチョク」を提供しました。一定の栽培基準を満たした全国の農林漁業者が、自ら価格設定を行い、オンライン上で生産物を販売し、消費者・飲食店に直接発送できます。卸業者や小売店を介さないため、規模が小さい生産者でも利益を得られます。デジタル技術を活用することで、生産者と消費者の両者にメリットがあります。
農業DXのポイントはデータ活用

農業経営者や流通・小売業者、消費者、行政等の農業に関わる様々な主体がデジタル技術を活用することが、農業DXを推進する上で重要です。各主体が必要な情報を組み合わせ、分析・予測・検証を繰り返すことが新たな価値を創造する鍵になります。
そこで、農業データ連携基盤協議会は、各主体の情報共有をシームレスに行うために、WAGRIというプラットフォームを提供しています。WAGRIは、主体を超えたデータ連携・共有・提供機能を有しており、データ活用に大きな役割を担います。現在は、生産現場と行政での利用に留まっていますが、2025年には、加工・流通・消費・輸出にまで拡張したスマートフードチェーンシステムとして展開される見通しです。農業に関わる様々な主体でデータ活用が基準となれば、農産物の品質データや気象データまでも可視化できるようになります。
もしもデータ活用が苦手な方は、外部の企業に外注することをおすすめします。最近では、相談に応じてくれる企業も少なくありません。自身の生産・運営方針を明確にするためにも、迷ったら一度は相談してみましょう。