
IoT端末で集めたビッグデータの活用は、ビジネスの中で普通のこととなりつつあります。自動車業界では、自動運転がビッグデータ分析の結果に大きく依存しているという話がありますが、マーケティングもビッグデータを活用する余地が大きい分野です。
ところで、マーケティングは市場調査を主な活動の一つとしていますが、例えば、市場調査はビッグデータとどのように関係しているのでしょうか。市場調査はビッグデータを活用せずともアンケート調査・サンプリングなどの手法で、多くのデータを集めていきますよね。
しかしビッグデータを活用することで新たなメリットもあるのです。今回は、マーケティングとビッグデータの関係について、どんなマーケティングにおけるビッグデータの活用法から実際の事例までを中心に解説します。
1分でおさらい。ビッグデータとは?

ビッグデータとは、下の4つのVに規定・集約される情報のことです。ビッグデータには、実は正式の定義はありませんが、以下の4つのVは、ビッグデータの特徴をよく示しています。
Volume (量)
ビッグデータの「ビッグ」はデータ量が大きいことを意味しています。
Velocity (速度)
サービスやメディア、センサーなどから得られる膨大な量のデータは、ほぼリアルタイムで処理されるものです。
Variety (種類)
利用できるデータが多様であることを指しています。従来、データは構造化され、整理されていました。構造化されたデータで典型的なのはエクセルファイルとSQLサーバです。従来数字とテキストのデータは、こうした整理がベストと考えられてきたからです。一方、ビッグデータをIoT端末で収集する場合、テキスト・音声・動画など形式が多様で、DBにおける単一のデータフォーマットで構造化することができないデータを大量に収集することとなります。
Value (価値)
さらに、4つ目のVとして、次のような「価値」、言い換えるならプロセスの成熟度・技術力を問われることがビッグデータにはあります。データが正確であることはもちろん必要ですが、さらにビッグデータに価値を見出す上で重要なのは、その分析だけではなく、検出プロセス全体ととらえることができます。Vの内容をよく見ると、今まで市場調査で扱っていたデータを「点」とすると、四つのVがあるので、ビッグデータは、「線」ないし「面」で市場を把握する、情報量の点、および質的な差異があると考えられます。
ビッグデータは、どんなマーケティング活動に使えるのか

極論かもしれませんが、ビッグデータはマーケティングのどの業務においても活用することができます。大きく分けると下記の3つがビッグデータを活用できる業務として当てはまります。
- 市場調査
- 広告
- リピート客の創出
事例で見る・マーケティング業務でのビッグデータ活用のメリットとは?

市場調査・広告・リピート客の創出がビッグデータの活用により、どういったメリットが生まれるのか、実際のビッグデータ活用事例とメリットをまとめてご説明します。
1.大量なリアルタイムのデータを分析することで調査・予測の信頼性を高める
ビッグデータは、事後に行う顧客アンケートよりも、より顧客のリアルな姿に、リアルタイムで迫ることができます。
例えば、データを時系列順にならべて何時の時点で顧客がどのように行動するか、順を追ってトレースないし分析することができるので、結論だけではなく今まで把握しにくいとされていた、購買へのプロセスもより正確に把握することができます。
消費者調査の信頼性を高め、従来の定説を打ち破った例として、ダイドードリンコの自動販売機を見る「アイトラッキング・データ」の活用事例があります。同社では、マーケティング戦略として「ユーザーの視線は左上からZ型で動いている」という定説にあわせた商品配置を行っていました。
しかし、より信頼性の高いアイトラッキング・データを検証したところ、ユーザーの視線は、左上からではなく、むしろ左下から商品全体を見ることとなっていたのです。これらのデータを参考に、自動販売機の人気製品の陳列の順番を左上ではなく左下に変更しました。その結果、売上が増加したのです。

2.ビッグデータから、顧客像をより正確に理解することができる
上記から、ビッグデータを利用すると、見込み客の人物像、見込み客層の特性をより正確につかむことができるとされています。特にマーケティングの分野では、ビッグデータを活用すると以下の視点が明確になります。
- 見込み客のニーズ
- 見込み客がどこにいるか、その位置や属性
- 顧客がリピートする要因
上記の例として、日本航空の事例をご紹介します。日本航空のWebサイト”JAP”には、月2億PVほどあり、そのWebアクセスログデータの解析を行っています。そしてお客様に対するサービスのレコメンドを同じ内容で一斉配信するのではなく、よりパーソナライズしたレコメンドを行うマーケティング手法をとっています。
ロンドンの航空券を検索した方は次にどういう商品を見て、どこのページを訪問した、などとログを詳細に解析することで、詳細なニーズの把握に役立てることができるのです。実際に買ったお客様と買わなかった潜在顧客の行動の比較もしているということで、ビッグデータを最大限に活用していますね。
1対多数の広告から、One on oneマーケティングまで、ビッグデータ分析により顧客個別の人物像に迫り、マーケティングの効率と可能性を広げることがビッグデータのメリットであることがこの例からも理解できます。
3.ビッグデータ分析はどの分野にも応用できるので、業務に生かしやすい
ビッグデータは、市場分析や未来予測などに用いられ、様々な分野で応用が効きます。市場分析や未来予測等、どんな切り口から分析するかによって業務の成果に繋がるところも醍醐味の一つでしょう。下記の3つはマーケティングで活用できる例です。
- 顧客の所在を予測し価格の最適化を図る
- ニーズ・要望・顧客属性に合わせた広告を最適化する
- リピート客の消費行動を分析し、リピート客を増やす施策を立てる
なかでもリピート客を作る仕掛けは、ビッグデータを活用すると従来より効果的・効率的に行えるようになります。例えば、趣味嗜好のあう顧客をセグメント分けし、利用の確度の高い有益な情報を発信することによって売上向上に成功している事例があります。
メディアのレンタルを主要なビジネスとするGEOでは、顧客の嗜好を分類したうえで広告・メルマガ・クーポン配信を分類したセグメントに実施しました。顧客分析に加えて商品の相関関係分析を加えることにより、より確度の高い購買行動につながる情報発信が可能になります。
この事例では、顧客ロイヤリティの高いファンのコミュニティを作ったり、インフルエンサーによるイベント集客などにも繋がっています。
4.商談または購買行動まで効率よく誘導できる
ビッグデータを活用したマーケティングの効果を考えるために、特定の潜在客に対してビッグデータがどう活用できるかご紹介していきます。前提として見込み客の獲得から商談まで、マーケティング活動は次のように進んでいきます。
②見込み客の集客
③見込み客を購買行動に仕向ける
④見込み客を商談に参加させ、顧客にする
もっともこのプロセスを効率化している、と考えられるのは、True &Co.,の事例です。この会社は下着のフィッティングデータの活用で、より個人の好みに合う「着心地」をアピール、顧客の囲い込みに成功しています。
True &Co. の事例では、ブラジャーの選び方に悩み、経済的に余裕のある購買活動に巻き込みやすい層をターゲットとしています。フィッティングデータをベースとした注文システム・顧客管理システムを導入しており、データから最適な下着を選べることにより、購買行動に仕向けることがデータ活用によりかつてより容易になっています。
また、次の消費予測もより容易といえるでしょう。それと同時に、商品そのものが「あなたのための商品」として作られているとの印象を与え、消費者の意識に根付く手法をとっていますので、最もパーソナライズされたマーケティングができるのです。
ビッグデータを活用した手法では、顧客がどのように動くのか、また顧客のニーズは何か、分析に基づく予測データをビッグデータから抽出することができるので、リード創出~リードナーチャリングを効率化できるのと同時に、より正確に顧客のニーズにこたえることができます。
逆に、予測した見込み客の成約率が低い場合、そこにあまりリソースを掛けないでもよい、という判断につながるでしょう。「見える化」された顧客に対しては、売上予測が比較的容易なため、使うべき時間・費用が見えやすくなり、合理的なマーケティング活動ないし営業活動ができるようになります。

まとめ
以上、事例でもご紹介した通り、マーケティング業務には、ビッグデータを活用すると、より信頼性の高いデータに基づき、分析・予測が正確で柔軟、見込み客に個別にアプローチできて、効率性も高いというメリットがもたらされます。ビッグデータ活用は、例えばすでにクラウドMAツール・BIツールなどで行っている企業、特に中小企業も多くあります。過去データ・今後のデータの取得と整理により、御社でもマーケティングにぜひビッグデータの活用をご検討ください。