
データを活用することで、物流における課題を解決したいと考えている方は多くいるのではないでしょうか?近年、ビッグデータやIoTといったキーワードがビジネスのトレンドとなり、膨大なデータをビジネスに活用しようという機運が高まっています。実際、ビジネスにデータを活用することで、業績を向上させている企業は多いです。物流業界でもデータを活用する動きが強まっていますが、実際どのようにデータを活用すればよいか分からない方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、物流業務におけるデータ活用方法とメリットについて解説します。合わせて、物流業務におけるデータ活用例もご紹介。この記事を読めば、物流業務においてどのようにデータを活用すればよいのか、理解して取り組むことができるようになりますよ。
目次
物流業務におけるデータ活用とは?
物流業務におけるデータ活用とは業務プロセス内で、継続してデータを組み込んでいく活動を指しています。1回限りの分析にだけ用いるのではなく、日々の業務の中でデータを継続的に使っていくことで、課題や効率化の発見が可能です。物流業界では在庫データや機器の稼働状況などといった、ほかの業界と比べても多い情報を扱う必要があるでしょう。
物流業界でデータ活用による業務効率化や売上増大などが期待されていますが、背景にはIoTなどの技術革新や労働力不足、物流業務の複雑化などが挙げられます。日本経団連が公開しているレポートの中も挙げられているように、物流はデータの利活用による変革が最も期待されている業務の1つであるといえるでしょう。
物流におけるデータ活用の現状
しかしながら、企業内での物流業務におけるデータ活用はあまり進んでいないというのが現状です。
総務省が行った調査によると、データを活用している業務領域の中で、物流・在庫管理にデータを活用している割合は全体の14.8%となっています。その他の業務領域を除いて最も低い割合となっており、大企業であれば22.1%、中小企業の場合はわずか9.0%です。また、物流・在庫管理に今後もデータ活用をする予定がないと回答した企業は、企業内に当該事業領域が含まれていない場合も含めて51.4%と半数を超えています。一方で、今後はデータ活用をしていきたいと考えている企業は、33.8%と高い割合です。物流・在庫管理領域において、データ活用による効果があると回答した企業は65.3%と、高い割合を示している点からも分かります。
物流でデータ活用を導入するメリット
物流業務においてデータ活用を導入していくメリットとして、次のような点が挙げられます。
- コストを抑えて迅速な配達が可能
- 在庫管理の品質の向上
- 予測精度の向上
- 人材不足の解消
データ活用の導入によって、これまで物流業界が抱えていた課題を解決できるようになっていきます。また、データの活用を進めていくことで最終的に諸活動をデータで評価できるようになり、かつ全活動に対する評価もしやすくなるでしょう。データ活用は属人化しにくいので、改善活動の長期化にも繋がります。
次に、データ活用を導入するメリットについて解説しますので、ご覧ください。
1.配達コストを下げながら、より早く配達できるようになる
蓄積されたデータを分析して活用することで、最も費用対効果の高い配達ルートを発見できるようになり、配達にかかるコストを抑えた上でより早く配達できるようになります。1日に数百から数千台の車両を管理している物流会社にとって、燃料コストを最小限に抑えて納期通りの配達を確保するための最適なルートの決定は重要なプロセスです。
経路選択システムは出荷状況や道路の状況、気象条件など膨大な量のデータに基づいて、車両の最も効率的なルートと停車順序を計算してくれます。また、想定される様々なシナリオを素早く実行して状況に応じたルートや分岐点を考慮に入れた上で、どの車両を選択すべきかを決定して配達チェーンの最適化を実現します。
ルート最適化システムなどでデータを活用することで、コストや計画にかかる時間を削減できるだけでなく、定刻到着率や車両利用率も大幅に改善可能です。作業効率の向上によって、顧客満足度の向上にも役立つでしょう。
2.在庫管理の質が高められる
データを効果的に活用していくことによって、倉庫に保管している在庫の管理もより効率的にできます。
データを活用した倉庫は生産性の向上に貢献し、エラーの削減をしながら労働者の人的関与を最小限に抑えられるでしょう。自動化やIoT、AIを組み合わせてデータ分析を行えば倉庫のパフォーマンスを俯瞰的に把握できるようになり、整理や配送などの方法についての手がかりを得られます。センサーを駆使すれば、保管中や運送中の温度や湿度などといった要素を監視もできるようになり、商品の安全性を向上させられるでしょう。
また、データの活用によって倉庫内のどの部分が最も混雑しているのかなどの情報を得られるので、倉庫内の床面積をシーズンに応じて有効に利用する計画を立てられます。企業は倉庫の数や場所、容量を把握して最適化できるようになるので、資本の労力の浪費を抑えた効率的な倉庫管理の実現が可能です。

3.将来予測の精度が上がり、より効率的なビジネス展開ができる
過去から現在までのデータを収集して分析することで、将来発生するイベントの予測精度が高まり、効率的なビジネス展開ができるようになります。
履歴データに基づいてアルゴリズムを用いて分析を行えば、パターンを確立して将来の予測が可能です。需要と供給の予測分析によって、企業は在庫や出荷といった計画に対して、より賢明な判断を下せるようになるでしょう。過去のデータと将来の予測結果を利用すれば、顧客の好みに応じたレポートの生成と需要の予測が可能となり、最適な労働力とリソースを割り振れます。
また、将来発生するかもしれない機械故障の予測によって、優先的な点検やメンテナンスもできるようになるでしょう。予測される問題を事前に把握しておけば、機材の故障によるロスを抑えて、運用にかかるコストを合理化できます。
4.業務効率化により、人材不足が解消できる
データを活用して業務を効率化することで、最小限のリソースでも業務を行えるようになり、人材不足の問題を解消できます。
近年ではコロナ禍によってECサイトや配達サービスへの需要が増加し、伴って物流の需要も大幅に増加しています。少子高齢化の影響によって若手人材が不足しているほか、免許を取得するための時間やコストによって、人材確保が難しくなっているのも問題です。人員の見直しやロケーション管理などといった運用の見直しで対応する企業も多くありますが、現場のキャパシティーを超えてしまうと現場にかかる負担が大きくなってしまいます。
データやITを活用すれば、これまで人の手で行っていた作業を自動化できるので、最小限のリソースで業務をこなせるようになります。また、増え続ける需要に対応しながら、長時間労働の是正といった働き方改革に取り組むこともできるようになるでしょう。
物流でデータ活用を導入するメリット
物流業界においてデータ活用を進める方法は、次のステップです。
- データの整理
- データの分析
- データの活用
データを有効に活用していくには現状をしっかりと把握した上で、何を目標としてデータ活用を進めていくのかを決めておく必要があります。専門的な知識を持った人材や高性能なツールの確保も大切ですが、まずはデータ活用までのプロセスをしっかりと把握しておきましょう。
次にデータ活用までのプロセスについて、段階的に解説します。

1.データを整理する
分析に着手する前に、目的を達成するために必要なデータが何か整理しておきましょう。
分析によって解決したい目的や課題に応じて、
- 対象は何か
- 時期はいつか
- データの収集方法はなにか
など扱うデータの種類や条件を意識して、必要なデータと今は必要がないデータを整理しておくことが大切です。過去の事実や仮説といったデータも一緒に整理できていると、分析時のデータもよりよいものに仕上がるでしょう。また、社内における関係者とも認識を打ち合わせておくと、よりスムーズにプロセスが進行していきます。
データの整理が終わったら、必要なデータを統合して分析・活用しやすい状態になるようにしておくことが大切です。データの状態がバラバラのままだと、正確な分析を行うことができず、誤った結果を導き出しかねません。
2.データを分析する
目的の達成や課題の解決に必要なデータが集まったら、収集したデータを適切なツールを用いて分析を行っていく工程に入ります。
データの分析を行っていけば、データ間の因果関係や相関関係などを発見して、サービスの向上や収益の改善に必要な知見を得ることが可能です。例えば、過去の取引データを分析して将来の需要を予測すれば、倉庫内の在庫管理などを効率的にできるようになるでしょう。また、WMSやWESといったITシステムを駆使すれば、人の動きや管理コストといったデータの分析もできます。
データを分析することで知見を得れば、活用する段階でどのような施策や戦略を立てればよいのか、具体的に考えられるようになるでしょう。
3.データを活用する
データ分析によって得られた知見を元に、目的の達成や課題の改善に繋がる具体的な戦略や施策を立てて、データを活用していきます。
例えば、納品遅延などの輸送上のミスによって計画通りに業務が進まず、機会損失が発生しているといった課題があるとしましょう。遅延が発生する原因は工事や天候などによる渋滞や、別の納品先での大気発生といったものなので、合理的な対処が不可能です。課題を解決するために、発荷主と協力して遅延情報をリアルタイムに把握することで、遅延状況を計測できるシステムを構築しました。結果として、データに基づいて原因分析や対策検討をできるようになり、遅延発生件数を大幅に削減が実現が可能となっています。
効果的な戦略や施策を策定するには、実行前と実行後を比べて効果検証を行い、結果のデータを蓄積していくことが大切です。蓄積されたデータを次回の立案時に活用していけば、より精度の高い戦略や施策を立てられるようになるでしょう。

データ活用を物流業務に取り入れる際のポイント
データ活用を物流業務に取り入れていく上で、重要となるポイントは次の通りです。
- 目的を明確にする
- 軌道修正を何度も行う
効果的なデータ活用を行うためには、ただ漠然とデータを集めて分析するだけでは意味がありません。むやみにデータを活用しても、ありきたりな結果報告しかできなかったり、強引な結論を導き出してしまうでしょう。また、データ活用を行った後に結果から学ばなければ、効果的なデータ活用はできなくなります。データ活用によって目的の達成や課題の解決をするためには、上記に挙げたポイントを押さえておくことが大切です。
次にデータ活用で押さえておくべきポイントについて、解説します。
1.データ活用を取り入れる目的を明確にする
データを有効的に活用する上で重要なのが、活用を取り入れる目的を明確にしておくことです。
様々なシステムから多くのデータを収集できるようになった現代において、膨大なデータから何か見つけられるのではと、漠然とデータ分析に取り組んでしまうかもしれません。しかし、データ活用によって達成したい目的が曖昧になっていると、どれほど高性能なツールでも目的の達成に繋がる分析結果は出てこないでしょう。正しくデータ分析を行うには具体的な課題を見つけて、解決するために目的の明確な設定が必要です。
明確な目的設定ができれば、より素早く的確な分析や活用ができるようになります。最初から明確な目的を設定できない場合は、漠然とした目的から徐々に具体的にしていくとよいでしょう。目的が明確になるほど分析もスムーズになり、活用するための施策もシンプルで分かりやすくなります。
2.データ活用の軌道修正を何度も行う
データ活用ができたら終わりではなく、活用の効果を計測して定期的に軌道修正を行うようにしましょう。
データ活用によって解決した課題は何か、あるいは新たに発生した課題は何かなどを洗い出し、戦略と活用方針を見直す必要があります。見直すことで必要のないデータが明らかになったり、または新たにデータを収集・分析する必要性が出てきたりするかもしれません。また、データは常にアップデートし続けるため、データの収集と分析を止めてしまうと状況に応じた適切な戦略を立てられなくなります。
目的の明確化から効果の計測、軌道修正のサイクルを繰り返していけば、データ収集と活用のノウハウが蓄積されてより効果的な戦略を立てられるようになるでしょう。
データ活用を物流業務に取り入れる際のポイント
実際に物流業務でデータ活用を行った具体的な例を、次にご紹介します。
- 在庫の需要予測
- 危険運転の検知
物流は多種多様な荷物が行き交う、比較的単調な作業が多い業務ですので、データを活用することで効率的になる場面が多いです。効果的にデータを活用できれば、物流業務で抱えている課題を解決できるでしょう。
次に上記で挙げた例についてご紹介しますので、データ活用を取り入れる際の参考にしてみてください。

在庫の需要予測
データ活用を有効に活用することで、需要を正確に予測して、過剰在庫を減らせるようになります。原材料から製造、小売りまでサプライチェーンマネジメントを行うには、データ活用による需要予測が重要です。需要予測が正確に行えないと、倉庫内に在庫が溢れる過剰在庫問題が発生し、品質の劣化や収益性の悪化といったリスクが発生してしまいます。
過剰在庫問題が発生する背景として、発注担当者の勘に頼った発注フローや、競合他社の進出による市場の変化なども挙げられるでしょう。需要を正確に予測するには社内のデータはもちろん、天候情報などの外的要因のデータも必要です。正確に需要予測を行うことで、在庫のコストを減らして、効率的に業績を伸ばしていけるでしょう。
危険運転の検知
物流業務で問題となりやすい、トラックドライバーなどの危険運転による事故を、データ活用によって未然に防げます。
長時間労働や低賃金によってトラックドライバーの人材が不足していますが、危険運転による衝突事故の割合は高いです。また、フォークリフトの危険運転による接触事故や、荷崩れ事故なども問題となっています。危険運転による事故を未然に防ぐには、AIなどといったデータを活用するとよいでしょう。
例えば、車体に加速度センサーを設置して解析すれば、トラックのアクションを検知できます。車載カメラの映像を解析すれば、居眠り運転や指さし確認などといった、ドライバーのアクションを検知可能です。ドライバー1人1人の安全意識だけでなく、データ活用による仕組み作りによって、安全対策をより万全にできます。
まとめ
物流業務におけるデータ活用について、解説しました。物流業務は比較的単調な作業が多く、効果的にデータを活用しやすい業務です。データ活用を物流業務に取り入れることで、人材不足の解消のみならず、配達コストの減少や顧客満足度の向上といった効果が期待できるでしょう。また、データの活用によって物流の作業やプロセスを数値化できるので、問題点の正確な把握や具体的な目的設定による業務改善活動もしやすくなります。物流業務にデータ活用を積極的に取り入れて、物流ビジネスの発展に取り組んでみてください。