
企業のデータ担当者やマーケティング担当者など、社内でデータを活用する人が増えています。また、DX推進担当者など、データ活用のための基盤構築を任されている人も増えているでしょう。現在のビジネスにおいて、データの影響は大きく、さまざまな準備が必要となります。その中の一つに、データの正確性や一貫性を確保する「データクレンジング」があります。本記事では、データクレンジングの基本知識やメリット、具体的な手法について解説します。
目次
データクレンジングとは
データクレンジングとは、データの正確性や一貫性を確保するために、不正確なデータや欠損しているデータを修正・削除する作業を指します。この作業によってデータの品質が向上するため、ビジネス分析や機械学習など、データを活用する場面で信頼性の高い結果を得られるようになります。
企業のデータは日々蓄積されますが、時間が経つにつれて誤入力や不完全なデータ、重複データが増えてしまうことがあります。そのままの状態でデータを使用すると、分析結果が歪み、誤った意思決定を招く恐れがあります。そのため、定期的なデータクレンジングを実施し、データの正確性を維持することが重要です。
データクレンジングの目的
データクレンジングは以下のような目的が挙げられます。
- データの正確性向上
- データの一貫性確保
- データの完全性維持
- 重複データの排除
- 分析・AI活用の精度向上
- 業務効率の向上
データクレンジングは、特にデータドリブンな意思決定を必要とする場面や、AI活用が進む環境で不可欠な作業だと言えます。
データクリーニング・名寄せとの違い
データクリーニングとの違い
データクレンジングは、より高品質なデータを作ることを目的としています。具体的には、入力値の修正、欠損値の補完、重複データの削除などを実施し、業務に特化したデータに変換し、価値を高める作業です。
一方で、データクリーニングは、データの誤りや不整合を除去することが主な目的です。具体的には、欠損データの削除や異常値の処理など、データの「整然さ」を重視しています。
ただし、データクリーニングはデータクレンジングの一部工程と考えられるため、違いはそれほど大きくはありません。
名寄せとの違い
データクレンジングの目的は、データ全体の品質向上であり、作業は多岐にわたります。その中で、名寄せは重複データの統合に特化した作業です。例えば、同一の顧客や企業に関するデータが異なる表記や情報で登録されている場合、それらを統合し、一貫性のあるデータへ整理します。具体的には、以下のような例があります。
- 顧客名の統一(例:「株式会社〇〇」と「(株)〇〇」を統一)
- 同じ企業の異なる部署のデータを一元化
- 重複して登録されたレコードの統合
名寄せは独立した工程と考えられがちですが、データクレンジングの一部であるため、どのような処理に特化するかによって表現が異なると捉えるべきです。
データクレンジングのメリット
続いて、データクレンジングを実施することで得られるメリットについて解説します。
データの正確性を向上させる
データクレンジングによって、誤入力や不整合なデータを修正し、正確な状態を確保できます。例えば、誤った数値データは、財務や営業の意思決定に悪影響を及ぼす可能性もあります。正確なデータを確保できれば、より適切な戦略や施策を立案しやすいというメリットも生み出すのです。
業務効率が向上する
事前にデータクレンジングを行うことで、業務の効率が向上することも大きなメリットです。未処理のデータを扱うと、エラー修正やデータの再入力作業が発生し、業務効率が低下してしまいます。また、システムに誤った情報が登録されていると、担当者がその都度手動で修正する必要があり、非効率な業務運営につながります。しかし、データクレンジングを適切に行えば、不要な作業を減らし、業務負担を軽減できます。
コストを削減できる
業務効率化に伴い、全社的なコスト削減を実現できることもメリットです。データの質が向上することで、業務の手戻りや誤った意思決定が減り、よりコスト効率の高い経営を実現できます。
また、事前にデータクレンジングを行うことで、将来的なデータ修正やトラブル対応にかかるコストも削減できます。例えば、データ移行の際に、大量のデータ加工が必要になるリスクを軽減できるため、短期的なコスト削減だけでなく、中長期的にはリスク回避にもつながります。
データクレンジングが必要なケース
データクレンジングは必ずしも必要な作業とは限らず、必要となるケースと、そうではないケースが考えられます。
データの重複や誤入力が多い
データの重複や表記揺れが多い場合は、データクレンジングによって最適化すべきです。そのまま活用しようとすると、誤った情報が影響し、無駄なコストがかかることになりかねません。
例えば、取引先の社名に表記揺れがあると、実際よりも多くの取引先があるように計算されてしまう可能性があります。その結果、マーケティングや営業活動に悪影響を与えることになりかねません。このようなデータの不整合は、適切なデータクレンジングによって解消できます。
システム統合やデータ移行を実施する
異なるシステム間でデータを統合・移行する際は、データクレンジングが必要になることが多いです。多くの場合、データのフォーマットや形式に違いがあるため、そのまま移行すると整合性の問題が発生する可能性があります。また、移行時にすべてのデータが必要とは限らず、不要なデータを削除して最適なデータのみを移行できるよう、事前にクレンジングを行うことが重要です。
データ分析で異常値や欠損値が多発している
データ分析の過程で、異常値や欠損値が多発している場合は、データクレンジングを活用すべきです。不正確なデータで分析を行うと、誤った結果を導くリスクが高くなります。例えば、売上データの一部が欠損していたり、異常に高い値やマイナスの数値が含まれていたりすると、平均値やトレンド分析の精度が大幅に低下します。その結果、誤った意思決定を下してしまうことになりかねません。
このような場合は、データクレンジングによって異常値の修正や欠損値の補完を行い、より正確なデータに整えることで、分析結果の信頼性を向上させることが可能です。
データクレンジングの主な作業内容
データクレンジングの作業内容は多岐にわたるため、状況に応じて適切な処理を行う必要があります。以下、代表的なものをピックアップして紹介します。
データの重複排除
データベース内で重複したレコードを特定し、統合または削除します。重複データを放置すると、データの活用時に誤った分析結果につながり、業務や意思決定に悪影響を及ぼす可能性があります。例えば、顧客管理システムでは、同じ顧客が異なる表記で複数登録されている場合、これらを適切に統合することが可能です。
欠損値や異常値の処理
データ内に欠損値や異常値が含まれている場合は、平均値や中央値で補完する、あるいは外部データを活用して補正する方法があります。ただ、欠損値や異常値は処理の方法が多岐にわたり、適切な対応が求められるため、データクレンジングの中でも負担がかかるため注意が必要です。
データフォーマットの統一
データフォーマットの統一とは、「データの形をそろえること」です。異なるフォーマットで入力されている場合、分析の際に問題が生じます。例えば、以下のような違いが生じることがあります。
- 日付フォーマットが異なる場合:
- 「YYYY/MM/DD」
- 「DD-MM-YYYY」
⇒並び替えや計算が難しい
- 電話番号フォーマットが異なる場合:
- 「090-1234-5678」
- 「09012345678」
⇒検索や照合がうまくできない
このような異なるデータフォーマットを統一する方法はいくつもあり、例えば以下のとおりです。
- データを活用するツールで扱いやすいフォーマットに統一
- 現行フォーマットの中で最も活用されている形式に統一
どのフォーマットが最適かはケースにより異なりますが、ルールに基づいて統一することが大切です。
データの正規化
データの正規化とは、「意味が同じデータを同じ表記にそろえること」です。データフォーマットは処理の効率化に繋がりますが、データの正規化は、分析の精度向上に繋がります。例えば、以下のような表記ゆれが発生することがあります。
- 都道府県の表記:「東京都」「東京」「TOKYO」
⇒すべて「東京都」に統一 - 性別の表記:「男性」「男」「M」
⇒すべて「男性」に統一
日付フォーマットと違い、「東京都」と「東京」と「TOKYO」を同一の内容として認識させるには、事前にルールを決める必要があります。以下、ルールの例です。
-
ルールを決めて、「東京都」や「男性」などに統一する
-
データを扱うツールで、表記のゆれを自動修正できるようにする
このようにすることで、データ分析が正確になり、間違った判断を防ぐことができます。
不要なデータの削除
古くなったデータや不要なデータを適切に削除する作業を指します。不要なデータを管理し続けると、データ流出時の影響範囲が大きくなってしまいます。また、大量のデータを管理し続けると、ストレージの無駄な消費やシステムのパフォーマンス低下につながる可能性があるでしょう。
データクレンジングの手順
続いて、データクレンジングの手順について解説します。
クレンジング対象データを特定する
最初に、データクレンジングの対象となるデータを特定しましょう。どのデータを対象にするかを明確にしておくことは、作業を円滑に進めるために非常に重要です。例えば、顧客データ・売上データ・商品データなど、目的に応じて適切なデータを選定しましょう。また、データの収集元や粒度、形式を確認することで、どのような方針でデータクレンジングを進めるべきか決定しやすくなります。
データを収集する
対象データを特定しても、データが不足している場合があります。通常は、社内データを加工しますが、目的によっては追加データが必要になることもあります。例えば、公的機関が発表している統計データをやWeb上のデータを組み合わせることで、データクレンジングの精度を向上することができます。
特に、大量のデータを収集するさいは、スクレイピングと呼ばれる技術が活用できます。これは、事前に定めたルールに従い、自動でデータを収集してくれるため、大量のデータを効率的に取得できます。
データの品質を評価する
データの品質を評価し、どのような問題を抱えているか明らかにしましょう。例えば、以下のような点をチェックします。
- データの正確性・一貫性・安全性
- 欠損値や異常値の有無
- 重複データの有無
統計的な手法や可視化ツールを活用し、データの状態を数値化することで、具体的な改善ポイントを明確にできます。これにより、クレンジング作業で重点的に対応すべき課題を特定しやすくなるのです。
必要なデータ加工を施す
データの品質を評価を踏まえてデータの加工を進めます。具体的な作業内容は、以下のような処理です。
- 重複データの排除
- 欠損値や異常値の処理
- データの正規化(表記ゆれの統一)
- 不要なデータの削除
クレンジング後のデータを検証する
データ加工が完了した後は、クレンジング後に適切に処理されているか検証します。そのため、以下のような観点から検証しておきましょう。
- データの欠損や異常値が適切に修正されているか
- 不要なデータが適切に削除されているか
- 必要なデータが誤って削除されていないか
データを削除した場合、重要なデータまで誤って削除されていないかテストで検証することが不可欠です。誤って必要なデータが消えてしまうと、データ活用や分析処理に問題が生じるリスクがあります。
データクレンジングの手段
データクレンジングの手段は、大きく分けて3種類考えられます。
人力で実施する
最も簡単な方法は、人間が登録されているデータの内容を確認し、問題がある部分を発見、そして修正することです。準備がほとんど不要なため、素早くデータクレンジングを開始することが可能です。
ただし、人間が手作業で対応するため、データクレンジングできる作業量には限界があります。また、作業ミスが生じるリスクも高いため、これらは注意すべきポイントです。
専用ツールを活用する
データクレンジング向けの専用ツールを活用する方法があります。設定したルールに基づき自動でデータを加工することが可能です。例えば、データベースのフォーマットを自動的に統一するなどの作業が挙げられます。ツールを活用することで、手作業で発生しやすいミスを回避できます。また、大量のデータも効率的に処理できる点が大きなメリットです。
ただし、専用ツールを導入するために設定作業や他のツールとの連携が必要で、一定のコストが発生します。
データ分析基盤を活用してクレンジングを自動化する
データ分析基盤を構築すれば、データの収集から加工、可視化まで一元的に管理でき、クレンジングを自動化できます。また、クレンジング作業後にデータを即座に分析できるため、迅速に意思決定に活用することもできます。さらに、データの更新や管理も効率化され、組織全体で統一されたデータ管理・活用を実現しやすくなる点も大きなメリットです。重要なことは、データクレンジングを単体の作業ではなく、データ分析基盤の1つの機能として捉えることで、自動化や最適化をより意識しやすくなります。
データクレンジングツールの紹介
具体的なデータクレンジングツールを紹介します。
Talend Data Preparation

Talend Data Preparationは、機械学習アルゴリズムを活用してデータの標準化、クレンジング、パターン認識、照合を実現できるデータクレンジングツールです。データのプロファイリングや可視化を通じて、データの品質を向上させられるようになっています。また、データクレンジングだけではなく、エクスポート機能でExcel、Tableauへ出力、データウェアハウスへ連携ができます。そのため、データ分析ツールなどと組み合わせることで、データを効率よく活用できるのです。
Precisely Trillium

Precisely Trilliumは、企業向けのデータ品質ソリューションです。データクレンジングと標準化機能を提供しているため、社内のデータ品質を向上できます。また、大量のデータも迅速に処理し、信頼性の高いビジネスインサイトを得ることが可能です。また、APIが提供されているため、他社のクラウドサービスや自社開発のツールなどと連携できます。データ活用を見据えたシステム設計にも対応しやすいことが特徴です。
Dataprep by Trifacta

DataprepはTrifactaが提供する、ローコードでデータクレンジングできるツールです。Google Cloudでの利用が推奨されますが、単体でも利用が可能で、機能はほぼ同じです。データの内容を探索し、定義した変換方法に沿ってデータの加工を自動化し、データの精度向上を支援してくれます。
データクレンジングの注意点
データクレンジングにおける注意点も理解しておきましょう。
ツールの活用が実質的には必須
データクレンジングは、手作業でも可能ですが、処理量が増えると限界があり、ツールの活用が不可欠です。ツールなしでは、最適なデータクレンジングは実現できないと考えておきましょう。また、専用ツールもありますが、データ分析基盤を構築し、その中で実施するのが望ましいでしょう。
必要なデータに絞って着手する
データクレンジングは時間と労力を要するため、目的に応じて必要なデータに絞って着手することが重要です。例えば「社内のデータ全てをクレンジングする」という方針ではなく「マーケティングの精度を高めるためにクレンジングする」という方針を持ちましょう。
データの活用についても考慮する
データクレンジングは目的ではなく、データ活用を効率化するための手段にすぎません。そのため、まずはデータをどのように活用したいかを考えることが重要です。例えば、データを用いて顧客満足度を高めたい、売上を5%アップさせたいなど、さまざまな目標を設定することで、具体的に必要となるデータも明確になります。そして、クレンジングすべき対象も自然と明らかにできるというわけです。
データクレンジングの成功事例
データクレンジングの成功事例を紹介します。
AIに導入するデータの整理
AIに導入するデータをクレンジングすることで、性能を向上させた事例があります。事前に異常データや予測に不要なデータを除去することで、AIがより正確なデータだけを学習するというものです。データ可視化サービスを用いて、効率よくデータクレンジングを実施し、AIの分析性能や分析精度の向上に成功しています。
データ活用の効率化
データクレンジングの自動化と組み合わせて、データ活用に成功している事例は多数あります。手動でデータを加工する場合と比較すると、必要時間を大幅に短縮できます。そのため、データを分析や意思決定に時間を割けるようになり、結果的にデータドリブンな経営にも繋げられます。
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まとめ
データ活用の質を高め、DXを推進するためには、データクレンジングが必要です。また、クレンジング作業だけでなく、データの収集・管理・分析基盤までを一括で行える体制の整備も求められます。単純にデータを蓄積するだけではなく、データを資産として管理するための仕組みを整えることがポイントです。
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