市場調査は、製品やサービスを開発したり販売したりする前に、事前に情報を収集することです。社内や担当者の考えに依存するのではなく、市場の状況を把握することによって、より良い意思決定ができるようになります。今やマーケティング担当者には必須の業務です。
ただ、市場調査の意味合いや重要性、具体的な方法や手順についてつかめていない人もいるでしょう。今回はポイントも含めて順番に解説します。
市場調査とは
市場調査とはどのような活動であるかイメージできないかもしれません。まずは、概要や経営における重要性を抑えておきましょう。
市場調査（マーケットリサーチ）の概要
市場調査はマーケットリサーチとも呼ばれる活動で、製品やサービスの開発・販売促進に向けた戦略の元になる情報を集めることです。競合他社や市場が求めていることを理解しなければ、適切な戦略を立てられません。数字など定量的な情報はもちろん、利用者の意見など定性的な情報も収集します。
このような情報を収集することは、市場を理解して新しい製品やサービスを開発するために必須です。情報を収集せず、自分たちの考えだけで開発したり販売戦略を立てたりしても、多くの場合は成功しません。どうしても偏った思考になってしまうため、これを避けるために市場調査で現実を把握し、そこで得たデータを正しく分析したりします。
経営における重要性
市場調査が経営で必要となる理由は、現実を踏まえたデータドリブンな判断を下すためです。一昔前は、経営者や担当者が経験などを踏まえて、戦略を立てたり判断したりしていました。ただ、このような判断は客観的な視点に乏しく、個人の経験などが大きく影響してしまいます。経営判断において、データドリブンではなく個人の経験や感覚に依存したものが多く含まれると、需要と乖離するリスクが高まります。例えば、市場価格を調査せずに製品開発を進めると、市場で求められている製品の価格帯よりも、高価格な製品を開発・販売してしまう、といった事態が起こり得るのです。このような状況を避けるためには、市場調査で客観的な視点から情報を得ることが一番といえます。
市場調査の種類
市場調査は大きく「定量調査」「定性調査」の2種類に分けられます。
定量調査
定量調査とは、数値データを用いて、市場や消費者の傾向を分析する調査方法です。例えば、アンケート調査やオンライン調査などで選択式の調査をすることで多くのデータを収集し、これらを統計の手法などで分析します。その結果を生かして、市場の規模や製品の普及率、消費者が求めている製品の傾向などを客観的な観点から評価するのです。具体的な数値を基にした意思決定が必要な際に有用な方法で、大量のサンプルデータからトレンドを得る際などにも役立ちます。
定性調査
定性調査は、対象者の持つ感情や意見、深層心理などを掘り下げて理解を深めようとする調査方法です。例えば、インタビューやエスノグラフィ、ソーシャルメディアでの投稿などを利用して、言動や行動を中心とした情報を収集します。定量調査のように数値として評価できるものではありませんが、感情や意見の背景にある情報や消費者の購買動機、製品への意見や価値観などを調査によって理解することが可能です。
市場調査の方法
市場調査は定量調査と定性調査で方法が異なります。具体的にどのような方法があり、どちらの調査に該当するのか理解しましょう。
アンケート調査
市場調査の中でも定量調査に分類される方法です。事前に調査したい内容や項目をまとめておき、対象者へそれらを展開、回答してもらいます。アンケート調査では、全員が同じ質問に回答する仕組みで、なおかつ選択肢が用意されていることが多いです。
以前は店頭や街頭など対面で実施されることが多くありましたが、現在はインターネット調査などが増えています。もちろん、イベント会場や郵送などで実施されることもありますが、利便性の観点からインターネット調査が中心だと考えて良いでしょう。近年は、アンケート調査用のWebサービスやGoogleフォームなどの活用によって、簡単にアンケートを実施できるようになっています。
ビッグデータ分析
定量調査の中でも顧客データなどを活用して分析する方法です。社内で保有しているデータを中心に、必要に応じてデータ販売会社などからもビッグデータを収集して対応します。例えば、自社で持つ販売データから「誰がいつどこで、何をどのようにしていくらで購入したか」を分析し、商品の売れ行きと顧客グループごとの傾向を把握します。
自社でECサイトを運営しているなど、簡単に情報を収集できる場合もあれば、小売店への販売が中心で情報を収集しにくいこともあるでしょう。データは定量分析の要ですが、量が少なかったり質が悪かったりすると結果に影響が出るため、その点を考慮して最適な方法かどうか検討しなければなりません。
ホームユーステスト
ホームユーステストは、新商品や改良品を実際にユーザーに利用してもらい、フィードバックを得る定量調査です。調査対象者は、既存のユーザー（顧客）とする場合もあれば、既存ユーザーに限らず、興味を持つ人をインターネットなどで募集する場合もあります。
一般的に、ホームユーステストは「実際に利用してみないと感想を述べられない」ような製品に適した方法です。例えば、化粧品を利用して肌の変化を評価してもらったり、健康食品を生活に取り入れてもらい検査結果の数値に変化があったりするかを評価します。
インタビュー調査
インタビュー調査は、市場調査のうち代表的な定性調査です。調査対象者からインタビュアーがヒアリングして、その内容を記録していきます。質問に答えてもらうだけではなく、調査対象者の発言を抜け漏れなく記録しなければ調査に役立てられません。また、適切な情報を聞き出すために、インタビュー調査会社などプロに対応を任せる場合があります。
近年はオンラインミーティングなどが普及してきたため、対面ではなくオンラインでインタビュー調査が実施されることがあります。また、インタビューは「一人」「グループ」どちらの場合もあり、企業がどのような情報を得たいかによって選択される仕組みです。
覆面調査
覆面調査は、一般の顧客を装い店舗で商品を購入したりサービスを提供してもらったりする調査方法です。一般的に、店舗を訪問した人が調査官など何かしらの評価につながるものならば、従業員は丁寧に対応します。このような意識的に受けるサービスを避け、日頃の接客スタイルなどを調査するために、覆面調査が必要なのです。
調査される側は調査官かどうかわからないため、日頃と同じスタイルで接客を続けます。従業員は調査官と思っていないため、覆面調査はリアルな情報を得られると考えて良いでしょう。ただ「接客態度に対する評価」「店内のきれいさ」「他のお客さんの様子」など、定量的に評価できない項目が多く、調査官の感覚に依存しがちです。そのため、覆面調査のために何人もの調査官を派遣するならば、評価基準を設けておかないと、調査結果を比較しづらくなってしまいます。
市場調査の基本的な手順
市場調査の進め方はいくつか考えられますが、基本として教えておきたい手順を今回は解説します。
1.調査の目的を決定
最初に「なぜ市場調査が必要なのか」という目的を明確にしておきましょう。目的が不明確であると、この先の手順である調査設計や調査対象となるデータの収集に失敗してしまいます。活動の根底になる部分であるため、十分に考えて調査の目的は定義しましょう。
目的には正解がないため、自分たちが抱えている課題や問題、達成すべき数値などを設定するようにします。あまりに細かすぎる目的は達成しずらく、市場調査そのものに悪影響を与える可能性がありますが、だからといって漠然としすぎた目的は避けるべきです。
2.調査の設計
調査設計とは、市場調査を実施する際に「誰(何)に対して実施するか」「どのような方法で調査するか」「予算はいくらにするか」などを細かく決める作業です。市場調査は、行き当たりばったりで進めても効果を得られません。そのため、目的を踏まえて調査対象やその方法を明確にします。
また、市場調査は目的を達成するために実施の期限等の条件が設けられているはずです。それらも設計段階で考慮しなければなりません。
3.調査票の作成
調査の方法として、アンケートやインタビューを採用する場合、調査票を作成します。事前に質問内容などをまとめておき、それに沿って情報を収集するのです。質問内容や仕方によって、得られる情報が変化するため、こちらも吟味しなければなりません。なお、ビッグデータ分析などの場合は、調査票を作成しないため、このステップは必要がある時のみ対応する手順です。
4.調査の実施
計画を立てて事前の準備も完了したならば、実際に調査を進めます。決めた内容を遂行するだけであるため、基本的に大きな問題は発生しないでしょう。予算やスケジュールが超過しないように意識することが重要です。
なお、アンケートやインタビューを実施する場合、思うように調査対象が集まらないことが考えられます。例えば、メールでアンケートの回答を依頼しても、回答してもらえない可能性がああります。思うように調査が進まないことは十分あり得るため、スケジュールは十分余裕をもっておく必要があります。
5.結果の分析や検証
必要な調査が完了したならば、続いては結果の分析や検証が必要です。事前に、どのような手法で分析や検証するか定めているため、それに沿って進めていきましょう。場合によっては、分析するためにデータの加工などが必要です。
また、分析や検証の結果が分かりやすいように、レポートなどでまとめておきます。また、必要に応じて表やグラフを活用して、直感的に理解できるようなレポートにすると良いでしょう。レポートまで作成できたら、最初の目的が達成できているかどうかの評価まで済ませておきます。
6.意思決定への反映
最終的には、市場調査の結果を意思決定に反映させる必要があります。調査自体が目的ではなく、市場の状況を踏まえて、適切な意思決定を実現することが最終目的です。作成したレポートなどは、意思決定者に連携して最終的な判断を依頼しなければなりません。
場合によっては、思い描いていた内容と市場の状況に乖離が生じていることがあるでしょう。このような状況においては、戦略を立て直すなどの対応が必要です。
市場調査の具体的な成功例
事情調査の成功例を具体的な企業で紹介します。
アサヒビール
アサヒビールは、2020年までブランド力が低下していた傾向があり、缶製品の出荷量が毎年減少するなどの問題を抱えていました。そこで、アンケートなどを活用した市場調査に力を入れ、各種製品の改良や新製品の開発、ブランドイメージの改善などを活用し、売上の回復を成功させています。
例えば、ビールの味を変えた試作品を多くの人に飲んでもらい、その評価を踏まえた製品の販売を実現。競合製品との比較についても意見を収集することで、自社はどのようなブランドを築けば良いかを明確にし、最終的な製品の開発をすすめました。
また、同じく市場調査によって、現在とは異なったサイズの缶製品が求められていることが判明。これについても市場への導入を検討し、最終的にはラインナップを強化するという観点からサイズ違いの製品を製造することを決定しました。このような市場調査から得られた分析によって売り上げを増加させています。
セブン＆アイホールディングス
コンビニ市場は店舗数が頭打ちになり極端な拡大が期待できない状態です。そのため、セブン＆アイホールディングスでは、コンビニ事業はもちろん自社が展開するすべての事業について、市場調査に基づいた意思決定に力を入れています。その結果、2023年2月期は小売業初の売上高10兆円超えと非常に大きなグループとなりました。
特に営業利益が大きいのはコンビニ事業であり、この背景にはセブンイレブンのオリジナル商品が多く導入されたことが考えられます。例えば、コンビニのお弁当やお惣菜は、スーパーと比較すると高価なものが中心です。大手コンビニは横並び状態ですが、セブンイレブンでは市場調査の結果、特に需要の高い商品についてのみ他社よりも低価格で提供するように路線変更しています。これが功を奏し、売上を大きく伸ばしたことでコンビニとしての利益を高めることにつながりました。
また、市場調査を海外にも適用し、海外のコンビニではあまり扱われていない商品の販売に力を入れています。セブンイレブンオリジナル商品を、海外の店舗に数多く配置しているのです。他店で取り扱いが少なく、なおかつ自社ブランドでコストを抑えた商品によって、海外でも圧倒的なポジションを確立しつつあります。
市場調査で注意すべきポイントとは
市場調査では、意識すべきポイントがいくつかあります。
調査の目的を意識する
手順の箇所でもふれていますが、調査の目的を明確にすることは重要です。目的に沿って様々な事柄が決まるため、これが明確でなければ意味のない調査になってしまいます。市場調査の目的を設定するためには、自社の課題を明確にし、それを解決できる目的である必要があります。また、その目的を達成できているかどうかを判断するために、定量的な目的であればなおよいでしょう。
仮説を立てる
調査の前に仮説を立て、それが正しいかどうか評価するようにしていきましょう。特に分析対象のデータが多いと、思うように調査が進まず、結果をなかなか得られません。可能な範囲で仮説を立てておき、それが正しいかどうかを評価した方がスムーズです。
例えば「商品の購入者は40代女性が増えている」と仮説を立てます。こうすることで、一旦は男性を調査の対象外とできるため、調査効率を高められるのです。もし、仮説に誤りがあったならば、新しく仮説を立ててそれに沿った調査を進めていきます。
調査ターゲットをしっかり設定する
仮説の設定と合わせて、調査対象を十分に検討して設定しなければなりません。「何を調査すれば目的とする情報を得られるか」という観点から調査対象を検討しましょう。
例えば、年齢や性別、職業などの「属性」を設定しなければなりません。ただ、これだけでは条件が不足する可能性があるため、商品の購入経験やメールマガジンへの登録など「履歴」も含めるべきです。これらを組み合わせることによって、理想的な調査対象を設定できます。
Webデータを活用する
分析の対象として「Webデータ」を積極的に活用しましょう。今の時代は、Web上に大量のデータが蓄積されているため、これらを活用することが重要です。特に、Webデータを活用することで、最新の情報を市場分析に反映させられます。
例えば、ECサイトの口コミから多くの情報を収集すれば、市場のトレンドを把握しやすくなります。誰がどのような商品を求めているのか、最新のデータから分析できるのです。
ただ、Webデータを活用する際は、必要なデータを自分たちで収集しなければなりません。事前の準備が必要となるため、その点は考慮しておきましょう。
効率よく市場調査をするためには
効率よく市場調査するためには、以下のポイントを意識しましょう。
データ収集の自動化
データ収集を自動化することによって、市場調査の効率を大きく高められます。解説してきた通り、市場調査を実施するためには、様々なデータを確保しなければなりません。データが不足すると調査が不十分になり、思うような結果を得られなくなるのです。ただ、人間が収集作業に従事すると負担が大きくなるため、専用のツールを利用して自動化するようにしましょう。
例えばＷebデータの収集自動化の場合、「RPAによる自動的なデータ収集」「VBAマクロなどのプログラム実行」「スクレイピング代行サービスによる情報提供」などによる自動化が考えられます。スクレイピングは、プログラムした条件を満たすデータをWeb上から短時間で大量に集められます。ただ、スクレイピングにあたってはプログラミングの知識のみならず、著作権法なども理解したりしなければなりません。そのため、自力で対応するには一定のリスクがあり、代行サービスで安全に実施してもらうことが理想的です。
適切なツールの活用
適切なツールを活用することで、効率よく市場調査を進められます。例えば、大量のデータを人間が分析することは現実的ではありません。そのため、データを取り込み、所定の手法によって分析してくれるツールの活用が理想的です。
近年は、市場調査に役立つツールが数多く提供されています。上記見出しのようにデータを収集するツールはもちろん、アンケートを実施するためのツール、分析結果をグラフ化するツールなども存在するのです。多種多様なものがあり、これらを効果的に利用することで、市場調査の効率を高められます。
まとめ
市場調査には定量調査と定性調査があり、状況に応じて使い分けしなければなりません。調査の目的によって、どちらの調査が必要か変化し、具体的な手順も変わってきます。そのため、まずは市場調査の目的を明確にし、そこから「どのようなデータが必要か」の決定、調査方法の選定や実施へと進んでいきましょう。
どのような調査においても、意識したいことはデータを活用することです。例えば、「製品の需要を明確にする」という目的があれば、まずSNSや口コミサイトで製品と関連する内容を発信している人の「年代」「性別」のデータを収集します。そのデータ分析から「30代女性」が多く口コミを発信しているとわかれば、そこをターゲットにより深い調査を進める、といった市場調査の方針を定めることができます。そうすることで、次の調査方法の決め方もデータドリブンに行うことができるでしょう。
なお、市場調査に必要なデータを収集することに時間をかけすぎると、市場調査の分析に割ける時間が少なくなります。これを避けるためには、データの収集を自動化したり外注したりする必要があります。特に、Web上からデータを収集するにはスクレイピングの代行サービスが便利であるため、弊社PigDataのスクレイピング代行サービスをご検討ください。
