
金融(finance)とテクノロジー(technology)を合わせた、「Fintech」という造語が出現してから久しくなります。銀行の口座のやり取りから決済にいたるまで、一般市民の生活の中でも金融のデジタル化は浸透しつつあります。現在、金融業界ではどのようにビッグデータを活用しているのでしょうか。また、どのような活用が試みられているのでしょうか。この記事では、金融業界がビッグデータをどのように活用しているのか、具体事例を元に紹介します。さらに、データ活用によってどのようなメリットがあるのかも解説します。この記事を読めば、今後の金融業界のDX化のヒントを得られます。
金融企業のビッグデータ活用によるメリット
金融業界では、膨大な量のデータが蓄積されているものの、有効活用されていない部分もかなりあります。これまで銀行やクレジットカード会社に蓄積された個人のデータは、自社内の信用情報として審査に使われることがほとんどでした。ビッグデータを活用することで、セキュリティ面の強化や経済動向の調査、さらに個人の生活の利便性に寄与することも可能になります。
金融企業でのデータ活用事例
自動化ツールなどを導入することでデータの蓄積は容易になりますが、データの収集と実際の業務への活用はイメージしにくい部分があります。ここからは、金融企業は実際どのようにデータを活用しているのか事例研究します。活用事例をいくつか研究することで、自社の新規企画や既に蓄積されているデータを活用する施策のヒントになるでしょう。
ビッグデータ活用による日本国内の経済動向分析【日本銀行】
ビッグデータは、日本国内の経済動向分析に活用されています。その一つが位置情報です。例えば、スマホから得られる消費者の位置情報を元に、消費行動を分析できます。スマホ発売以前のデータ収集と分析方法では、データを収集してから分析するまでに時間がかかっていました。しかし、スマホの普及とテクノロジーの進化によって、データ収集と分析の時間は大幅に圧縮されました。スマホの利用者が、どのような時間にどのような場所に集まっているのかデータを収集。スマホの位置情報はリアルタイムで発信されているので、データの収集を迅速にして短期的な消費者動向を分析できます。
スマホの位置情報で消費者の密集地をマッピング
スマホの位置情報なら迅速に人が集まっている場所を特定できるので、飲食店や娯楽施設などとマッピングすれば消費行動をタイムリーに分析できます。タイムリーな位置情報によって消費者の動向分析が出来ると、地域や季節によるトレンドを迅速に把握することが可能です。さらに、消費者に対して混雑情報や渋滞情報を迅速に通知できます。混雑情報や渋滞情報を得た消費者は、情報を元に混雑や渋滞を避けた行動をとることができるため利便性が向上します。結果として、娯楽施設にとっても消費者を分散させて一人ひとりの満足度を高めることも可能になり、売上向上の要因になります。
データ活用による不正の検出や防止【証券取引等監視委員会】
ビッグデータは金融業界の取引に対する不正の検出や防止にも活用されています。株価の不正な操作は、自由市場経済に対して大きな問題であり取り締まりを強化しなければいけません。しかし、不正な株価の操作は巧妙に行われることが多く、発見に時間がかかってしまうのが問題でした。そこで証券取引監視委員会は、SNSなどのネットへの書き込み情報を迅速に収集するシステムを導入し、不正に対応しています。
株価の動きを見ているのは、証券取引等監視委員会だけではありません。多くの投資家や一般人も経済動向、株価の動きを常に見張っています。株価の動きを見ている人の中には、タイムリーにSNSなどのネットで情報発信をする人が多くいます。全体的な動向とは異なる動きをする銘柄が発生した場合は、ネット上で話題になるためトレンドワードも発生しやすくなります。これらのトレンドワードをAIを搭載したシステムで迅速に調査をすることができます。異常な動きをしている部分を徹底的に調査することで、不正な取引を防げます。
金融ビッグデータを宣伝・広告に活用【SMBCグループ】
SMBCグループは電通グループと合弁会社を設立し、金融に関する顧客データを広告に活用し提供するサービスをはじめました。個人の顧客であれば、ライフイベントが発生した際に口座の使い方や金融機関の利用の仕方が変わってきます。これらのデータ、つまり結婚や出産などのライフイベントに合わせて、適切なタイミングで適切なサービスの広告を打ちだすことができます。また、法人の顧客にも金融データを活用してもらうことができます。例えば、化粧品メーカーが高価格帯商品を売り出す際に、金融データを分析することで、メーカーがターゲットとしているお客様のみに広告を配信することができます。
広告事業は金融とは違う事業ではありますが、金融データの活用を提供する側として様々な側面で多角的に人々を支えていくことができています。
金融業界が活用と分析をすべきビッグデータ
個別の企業がビッグデータの活用と分析を通して、各社のビジネスに応用していることはこれまでに説明してきた通りです。金融業界では、経済やビジネスの動向を俯瞰的、マクロな視点で見ることも大事です。マクロな経済の動向は、オープンデータを利用することで分析することもできます。例えば、世界銀行のオープンデータを分析すれば、人口動態と経済の動きを照らし合わせることが可能です。世界銀行のオープンデータ指標は、8,000以上ありますので自社のビジネスの方向性に合わせて社会や世界の動向も分析すべきです。
金融業界の方が活用すべきオープンデータサイトまとめ
金融や経済に関するオープンデータを入手したい場合は、常に更新されているサイトから収集すべきです。ここからは、金融業界の方が活用可能なデータを収集できるサイトを紹介します。
世界銀行
世界銀行のオープンデータでは、8,000以上の開発指標を無料提供しています。世界規模の動向を確認することができますので、グローバルな視点で経済動向を分析できます。カテゴリー分けもされているので、使いやすいサイトです。
Google Finance
Google Financeは、リアルタイムで幅広い証券情報を得られるサイトです。株価の動向や金融に関するニュースもあり、過去のアーカイブも残してあります。個別銘柄の長期的なチャート変動も確認できます。
米国証券取引委員会
アメリカの各企業の財務報告書をアーカイブとしてすべて残しています。世界の経済を引っ張っているアメリカの企業の動向を数値で確認できます。世界のトレンドを分析して、自社の新しい施策や企画に活かせます。
Financial Times
大手新聞社のFinancial Timesが、世界各国の証券取引情報を提供しているサイトです。金融に詳しい記者による分析記事も読むことができます。世界各国の企業の株価をリアルタイムと長期的なデータで確認できます。
金融庁
金融庁が運営しているサイトです。日本国内における国や地方公共団体、独立行政法人などが公開している情報をオープンデータとして提供しています。幅広いデータや情報を入手することができますので、経済や金融、ビジネスに関する動向を分析することができます。
まとめ
金融企業はビッグデータを活用することで、業務の効率化から消費者の利便性の向上まで多くのメリットを享受できます。スマホからの位置情報をタイムリーに収集すれば、消費行動を迅速に把握できます。SNSの書き込み動向を分析することで不正を未然に防ぐことにも寄与します。また、金融機関に蓄積されているビッグデータは、一般消費者の生活の利便性を向上させることも可能です。金融企業は今後活用可能なビッグデータを所持しているので、多くの人々の生活を豊かにできます。
ビッグデータは自社で蓄積していたり、用途に合わせて収集する必要があります。インターネットに蓄積されているWebデータは膨大で、活用価値の高いものが多いです。ECサイトなどからは商品のトレンドや価格推移などもわかるでしょう。これらのWebデータを収集するには手間がかかりますが、Webデータを一括で収集するスクレイピングを活用することで、効率的にデータ収集・活用が行えます。