
DX化を進めるために、地方自治体や企業ではDX推進室を設置するところも多くなっています。それでは、DX推進室とはどういった機能を持ち、どういった業務を担えばよいのでしょうか。今回は、地方自治体や企業でDX推進を担当している方に、DX推進室の役割や成功事例、成功のポイントを解説します。自社のDXに限界を感じている方は、ぜひ参考にしてください。
DX推進室の役割
DX推進室の役割はその名の通り、組織のDX化を推進することです。ただし、DX化と言っても、単純に業務工程をデジタルに置き換えるというだけではありません。DX推進室は、デジタル化によって「業務の効率化」「利用者の利便性向上」「社会的変化への迅速な対応」など、さまざまな目的への応用を意味します。DX推進室がおこなう施策によって、企業や行政の手続き面での利便性向上やサービス提供の最適化が可能です。地方行政が地域に合った最適なDX計画が進行すれば、地域に住む人々が暮らしやすい町になります。
業務のデジタル化
業務のデジタル化は、地方行政のDX推進室が進めている計画です。政府の方針に基づいて公務員の業務工程をデジタル化しています。従来のように、紙の書類だけで各種の契約書や計画書などを使用していると、手間がかかるばかりではなく時間も浪費してしまいます。各種の書類をデジタル化することによって、業務効率を格段に向上させることができます。働ける年齢の方が少なくなる少子化にも備えた計画です。
社内人材への教育
DX推進室の役割の一つに社内人材への教育もあります。DX化を推進していく上で重要なのは、デジタルを使って仕事をおこなう人材です。ITやコンピューターに詳しい人材は不足しているため、現在働いている人材をきちんと教育していくプログラムの構築が必要です。DX推進室は、デジタル化の技術面だけではなく、その目的や意義についても教育していく役割があります。
DX戦略の策定と実行
DX推進室の役割の中には、組織の中長期的なDX化戦略を策定して実行に移していく責任もあります。DX化をさせるためには、中長期的なビジョンを持って推進していかなければいけません。DX後の組織全体の利益向上などの目標を掲げ、旗振り役として導入を具体化します。目標への課題が生じた場合も、積極的に解決に向けて動きます。数ある課題解決をおこないながら、あらかじめ策定して目標までDX化を進めていきます。
変化への対応を迅速化
DX推進室がデジタル化を進めるのは、社会的な変化に対して迅速に対応できる体制を作るという理由も挙げられます。業務のプロセスや手続きをデジタル化しておくと、何らかの社会的な変化があっても迅速に対応できます。たとえば、国の法律が変更になり新しい手続きや既存の書類に変更点が合った場合があります。紙の書類の場合は、すべて回収して刷り直し、再配布するという工程をおこなわなければいけません。しかし、各種の手続きや書類がデジタル化していれば、インターネット上で簡単に修正をおこなえます。
データ収集と分析
地方自治体は、地域の活性化や住民の利便性の向上に尽力する義務があります。DX推進室は、各種手続きやアンケート調査をインターネット上でおこなうことで、データ収集と分析が可能になります。地方自治体は、常に住民の声に耳を傾けていなければいけません。各種の手続きやアンケート調査がデジタル上でおこなわれれば、データ収集や集計、分析も容易です。分析結果に基づいて、より良い地域づくりを推進することができます。
地方自治体におけるDX推進室
地方自治体におけるDX推進室は、DXへの旗振り役として配置されています。DX推進室がリーダーシップを取って、より良い地域創りに貢献しています。ここからは、地方自治体のDX推進室が実際にどのような活動をしているのか事例を挙げて紹介します。
能代市民の利便性向上
能代市のDX推進室では、市民の利便性を向上させるために各種の手続きをデジタル化しています。紙の領収書や証明書が必要な場合にも、コンビニで簡単に受け取れるシステムにして市民の利便性を向上させる取り組みをしています。市役所に対して質問や相談がある場合、LINEを用いて相談を受け付ける試みもおこなっています。また、対面での相談をする際には、オンラインで相談日の予約受付も取り入れています。
那覇市の「子育て支援プロジェクト」
那覇市のDX推進室では、DX化を推進することによって那覇市民の子育て支援の取り組みをおこなっています。那覇市では「なはDE子育て」という親子健康手帳アプリを開発し、忙しい親に対して子育てのサポートをおこなっています。「なはDE子育て」は、乳幼児の健診や予防接種の記録をおこないます。子供が保育園や幼稚園、小学校に入学する際におこなう健康診断の参考にできます。
豊中市の教育データサイエンス強化
豊中市のDX推進室では、教育にDX化を推進することで生徒一人ひとりの就学データを収集しています。データサイエンスを利用することで、一人の教師では目の行き届かない生徒一人ひとりの苦手分野や理解ができていない部分を「見える化」します。データは生徒一人ひとりが確認できるので、苦手分野の克服に専念することができます。
企業におけるDX推進室
企業におけるDX推進室は、DXによる利益の向上に貢献しています。ここからは、企業におけるDX推進室の事例を紹介します。
株式会社大林組
(株)大林組は建設業の大手企業です。最近では、クリーンエネルギー事業などで海外へも展開しています。規模の大きな建設会社なので、生産情報と経営情報、経理情報の管理は非常に複雑でした。しかし、「社内データの統合と活用」「システムのスリム化」「業務の自動化と省人化」を軸にDXを導入したことによって、生産と経理をすべて一元化して管理できるようになりました。(株)大林組は、DX化をすることで経営をスムーズにしています。
日本航空株式会社
日本国内の航空会社の大手、日本航空株式会社(JAL)もDX化に成功している事例として挙げられます。海外旅行の際に航空券を購入するのは、慣れていない利用者にとっては複雑なプロセスでした。また、常に変化する航空券の料金体系は、利用者を混乱させていました。JALでは、これらの複雑な料金体系をDX化して、利用者が簡単に購入することができるシンプルなシステムに変更しました。DX化によって、利用者の利便性を向上させています。
中外製薬株式会社
製薬会社の大手である中外製薬(株)も、DX化に積極的で成功をした事例です。店舗でのリアルな接客とオンラインを用いた顧客コミュニケーションを用いて、効果的なマーケティングを展開しました。また、新薬創薬にもDXを導入して、時間がかかっていた創薬のプロセスを簡略化して時間を圧縮することに成功しています。例えば、機械学習を用いて、最適な分子配列を提示してくれる創薬技術「MALEXA」を開発しています。このシステムによって、分子配列を人間が計算して提出するプロセスを簡略化できています。中外製薬(株)は、積極的にDX化に投資して、全従業員のDXへの知識や技術を高めています。
三井物産株式会社
三井物産(株)は、世界的に展開している総合商社の一つです。三井物産(株)は、世界中に支社を持ち、業務内容も幅広いため管理が複雑です。そのため、デジタルプラットフォームを構築して、現場から経理まですべてのデータを一元化しました。データの一元化により、収集と分析もスムーズになり、問題解決も簡単にしています。さらに現在では、森林保護のためにもDXを導入して、サステイナブルな環境作りにも貢献しています。
ヤマト運輸株式会社
輸送を担っている大手のヤマト運輸(株)もDX化によって、業務の効率化に成功しています。配送する際には、最も効率的で時間を短縮できるルートを自動で教えてくれるツールを開発して現場に導入しています。ECの配送に関しては、個別にデジタル化を導入して効率的に配送できるようなシステムにしています。配送荷物が多くなる時期と少なる時期をAIを用いて予測し、人員の配置に過不足が無いように工夫しています。
DXが失敗する理由
DXは多くの企業や自治体が試みていますが、その95%が失敗してしまうと言われています。失敗例を分析していくと、失敗してしまうのにはいくつかの原因があることがわかります。ここからは、DXが失敗してしまう理由を解説します。
DX化への理解不足
働いている従業員のDX化への理解不足は、失敗する理由の一つとして挙げられます。DX化は、組織内で働く人々全員が理解していなければいけません。特に、組織の意思決定をおこなう幹部クラスや、役員クラスの方々の理解は必須です。働いている方々のDX化への理解が不足しているために、導入の時点で頓挫してしまう場合もあります。また、システムを導入できたとしても、DX化への理解が無ければ設定した目的を達成することはできません。DX推進室は、社内全体に対してDX化の意義を伝えなければいけません。
DX推進室の人材不足
DX推進室の人材不足も、DXが失敗する理由の一つです。インターネットやコンピューターのシステムに詳しい人材がいなければ、DX化の計画を立案することもできません。また、DXのシステムを導入した後に、何らかのトラブルがあった際に対応することができません。十分なスキルを持ったDX人材が揃っていないにもかかわらず導入を進めた結果、失敗に終わってしまったケースも多いです。DX化には、適切なスキルを持った人材を集めることも課題です。
社内でのコミュニケーション不足
社内でのコミュニケーション不足もDX化が失敗する理由の一つです。DX化にはプロセスがあり、中長期的に継続している必要があります。コミュニケーションが不足していると、導入のプロセスの中で、組織内の各部署同士が連携せず個別に推進してしまうことが発生します。個別に進めてしまうと、DX化のプロセスにズレと軋轢が生じます。そのためDX化は、組織内のすべての部署とコミュニケーションを取りながら進めていく必要があります。これらの全体を指揮することが、DX推進室に求められます。
既存のシステムが複雑
既存の組織内のシステムが複雑なのも、DX化が失敗する原因の一つです。インターネットやコンピューターが普及する前の非効率な業務方法は、多くの会社や自治体が抱えている問題です。既存の資料整理の方法や業務のプロセスが複雑であるため、デジタルに移行するのが難しい状況があります。まずは、デジタル化する部分とアナログ管理を残す部分のリストアップをおこない、複雑化している部分の洗い出しをしなければいけません。その上で、DX化を進めながらシステムをシンプルにしていくことが、DX推進室の課題でもあります。
デジタル化システムの導入に満足している
デジタル化システムの導入に満足しているのが、DX化の失敗につながることもあります。コンピュータ―システムやツールの導入は、DXの初期段階に過ぎません。しかし、システム導入することで、一つの仕事が終わった感覚になりがちです。システムやツールは、目的に合わせて活用させることによって意味をなします。そのため、DX化のシステムを導入してからが本番です。システム導入後にDX化の目的をあらためて明示し、組織内を誘導していくこともDX推進室の課題と言えます。
DXを成功させるポイント
DXを成功させるためにはどのようなポイントに注意すれば良いのでしょうか。ここからは、DXを成功させるために注意すべきポイントを解説します。
社内人材の意識改革
DXを成功させるためには、社内人材全体の意識改革がポイントです。DX化は会社内全体的におこなわなければいけない施策です。一部分的にDX化することや、一部の人々がDX化に拒否的な態度を取っていると成功しません。特に、地方自治体で働くITに慣れていない高齢者層には、未だにコンピューターを遣わずアナログな方法にこだわる方もいます。組織内にいるすべての人材にDX化を推進するための啓蒙活動をおこない、社内人材の意識改革をおこなうことが必要です。
DXの目的を明確化
DXの目的を明確化することも、成功させるポイントの一つです。DX化に対して懐疑的な人々に対しても、システムを導入した後にどのようなメリットがあるのか明確に示すことによって、賛同を得ることが可能です。システム導入のプロセスにおいて、人によっては操作が難しいことや、システムエラーが連続して起こることでやる気を失ってしまう方もいます。DXの目的が明確で、システム導入後のメリットが多いと知っていれば、目的到達までモチベーションを維持させることが可能です。
自社の既存システムを洗い出す
自社の既存のシステムを洗い出して、検討することも成功のポイントです。DX化のプロセスでは、既存の作業工程をデジタル化する必要があります。中には、手続きや管理が複雑化してしまっている既存システムもあります。デジタル化する際に混乱が生じないようにするため、あらかじめ複雑な既存システムをシンプルにして置く必要があります。既存システムが必要なのか不要なのかを検討し、無駄なシステムは除外する決断も大事です。
ロードマップの作成
DX化をおこなう際には、ロードマップを作成しておくことも大事です。最終的な目標到達点とプロセスを明確化して共有しておけば、導入のプロセスで自社がどの地点にいるのか確認できます。導入のプロセスでは、予想しなかったトラブルも発生しがちです。目標とする地点に到達するために、問題も一つひとつ解決していかなければいけません。ロードマップがあれば、やるべきことが絞り込めます。ロードマップを参照しながら、DX化を進めてください。
DX化人材の育成
DX化に関わる人材の育成も成功のポイントです。DX化は、DX推進室のリーダーシップによって成功が左右されます。DX推進室には、ITやDXに詳しい人材を配置して各所でトラブルが発生した際にも対応ができる体制を作ることが大事です。また、DX推進室の人材に余裕があれば、各部署の人々へのデジタル教育も可能です。まずは、DX推進室内の人材を雇用・育成することから始めてください。
情報の共有システムを作成
情報の共有システムを作成することも、DX化の成功のポイントです。インターネットが普及する前、社内や取引先との情報の共有は、電話やミーティングをするか、紙の書類を送付することでおこなわれていました。しかし、インターネットが普及しメッセンジャーツールも発達している今では、社内や取引先との情報共有は容易です。DX化へのプロセスでも、メッセンジャーツールを活用して情報を積極的に共有してください。
まとめ
今後DX推進室は、地方自治体や企業にとって重要な役割を持つことになりますが、まだまだ課題も多いのも現実です。課題を解決するポイントは、社内の意思統一やDX推進室のリーダーシップ、そしてデータの活用です。データの収集と分析は、内部の情報だけにとどまらず、外部データを活用することも視野に入れたほうが利益の向上に繋がります。PigDataは、Webデータ収集サービスをとおして外部データの活用支援をおこなっています。データ収集にお困りの方は、ぜひご連絡をお願いします。