
不動産業界ではIT化が進められ、関連するサービスをまとめて「不動産テック」と呼びます。さまざまな業界でデジタル化が進められており、これが不動産業界にも適用されていると考えましょう。これからの時代、不動産業界では、多くのテクノロジーを使いこなすことが求められます。
しかし、不動産テックが登場したにもかかわらず、その詳細は理解できていない人は多いようです。知らない状態では時代遅れとなってしまうため、その概要や活用方法とメリットについて解説します。
目次
不動産テックとは?
不動産テックとは、不動産業界の課題を解決するために、様々なテクノロジーを活用することを指します。不動産業界に限らず数多くの業界で独自のテクノロジーが生み出され、不動産テックはその一種であると考えると良いでしょう。
特に、不動産業界は人手不足や昔ながらの働き方による業務効率の悪さが課題となっています。このような不動産業界ならではの課題をテクノロジーで解決するために、不動産テックが登場しました。これにより、従業員の負荷軽減や業務効率の改善などが期待できます。
なお、不動産テックのサービスには様々なものがあり業務支援・マッチング・AIなどが挙げられます。現在、このような不動産テックのサービスは増加傾向にあり、これからは活用が必要不可欠であると考えられます。

(参照:一般財団法人不動産テック協会)
不動産業界の最新IT事情
不動産業界のIT事情について、イメージできない人もいるでしょう。まずは、どのような状況に置かれているのか解説します。
日本のデジタル化の遅れ
日本の不動産業界は、IT化が遅れていると考えられます。近年になり、やっとIT化される部分は増えてきましたが、それでも遅れていると考えた方が良いでしょう。
例えば、不動産業界の契約は紙媒体が利用されることが多くあります。法律で定められているため、電子契約に置き換えができず、IT化が進まない要因となっているのです。これについては、法律そのものが変わらない限り改善されません。また、物件の説明に利用する資料など、全般的に紙媒体が多く利用されています。法律で指定されていない業務についても、昔ながらの働き方が残り、アナログなままなのです。
ただ、このような状況を可能な限り改善すべく、業務改善に関する不動産テックが増えています。法律的に対応できない部分はありますが、デジタル化が進められていると考えましょう。また、AIに関連する不動産テックも多く登場し、人間ではなくコンピュータが業務を支援できるようになってきています。
日本と海外の比較
不動産業界は世界的にアナログといわれているため、日本に限らずIT化が遅れているという側面があります。ただ、その中でもアメリカは圧倒的にIT化が進められ「PropTech (Property × Technology )」やReTech (Real Estate × Technology)」などと呼ばれている状況です。日本でも不動産テックが増えていますが、海外、特にアメリカではさらに多くのサービスが提供されています。
海外で注目したいサービスとしては「iBuyer」が挙げられます。日本のように物件の仲介を進める不動産テックではなく、物件を買い取って素早く転売するための不動産テックです。日本には存在しない概念のサービスであり、海外では不動産テックが進んでいると考えられる事例です。
不動産テックを導入するメリット
不動産テックを導入するメリットには以下が挙げられます。
情報の質が向上する
不動産テックを活用することで、取り扱いできる情報の質が向上すると考えられます。今まで以上に、効率的かつ正確に情報を収集できるため、業務そのものを効率化したり、失敗を減らしたりできるでしょう。
例えば、不動産テックには、不動産価格を可視化したり査定を支援したりするサービスが存在します。このようなサービスを活用すれば、テキスト形式のデータや紙媒体など、比較的アナログな方法で情報をやりとりするよりも正確性を高めやすいでしょう。結果、人的なミスが減少し、情報の質が向上します。また、複数の情報を比較したり、関連する情報も同時に手に入れることができる不動産テックを採用すれば、情報の質と量を同時に高められるのです。
また、情報の質が高まっていれば、結果も良いものになるはずです。借主へ良い情報を提供できたり、不動産投資で根拠を持てたりすることで、契約や利益につながるでしょう。
不動産業界が活性化する
数多くの不動産テックが登場し、これにより不動産業界が活性化すると考えられます。今までとは異なったアプローチで顧客と接触できるようになり、新しいビジネスモデルが生まれる、などです。
例えば、不動産テックでは「AR・VR」を活用したサービスが増えています。このようなサービスを提供することで、今まで以上に不動産を身近に感じてもらえるかもしれません。内装について、写真だけではなく仮想的な技術で体験できれば、購入するかの判断がつきやすくなるでしょう。購買意欲が高まることも考えられます。
仲介業者への依存軽減
取引に関する不動産テックが登場していることで、仲介業者への依存が軽減しています。例えば、不動産のマッチングサービスを利用すれば、仲介業者に依頼せずとも、不動産の売買が可能です。今までよりも自分たちで作業できる範囲が広くなり、不動産を活用したビジネスを進めやすくなります。
ただ、言い換えると仲介の「不動産屋」を営む企業にとっては、大きなダメージとなりかません。不動産業界にとって役立つサービスは増えていますが、それが業界の流れを変化させるかもしれません。
不動産テック13のサービス
不動産業界の業務は、非常にアナログであることが特徴です。ただ、近年はこのような状況から脱するために、様々な業務を支援するサービスが提供されています。不動産テックには多くのサービスがあり、それぞれに特徴があります。代表的なサービスの特徴を紹介します。
顧客対応
不動産の顧客対応もアナログな業務のひとつです。これを自動化させるために様々な不動産テックサービスが存在します。
例えば、顧客からの問い合わせをスムーズに管理したり処理したりするサービスがあります。問い合わせに自動的に対応したり、予約の処理や営業担当者のアサインを自動化したりするのです。顧客対応は売上に直結する重要な要素です。これを効率化するために顧客対応のサービスの導入は効果的といえるでしょう。
現場管理
建設作業では、日々の作業報告などが必要となるため、これを効率化する不動産テックがあります。例えば、現場からスマートフォンで情報を提供できることで、素早い情報共有や業務の効率化を目指すのです。内勤の担当者が現場の様子をパソコンやスマートフォンで確認できるため、現場に出向く際に必要となる時間を短縮できます。
また、電話やFAXを自動的に受けとり職人などへその情報をスムーズに連携するシステムを確立することで、施工までのスピードを早めるものもあります。本来は、担当者が内容を確認してから連携しますが、自動化することで無駄な待機時間が減少するのです。不動産施工の現場では、時間に余裕がないことも多いため、これを解決してくれます。
契約・決済
不動産は高額な取引になることが多く、契約や決済には時間がかかりがちです。そのため、事務作業を簡素化したり一元管理したりする不動産テックが登場しています。
特に、契約を可能な限り電子化して、契約作業を短縮したりコストを抑えたりするものが人気です。また、集金代行サービスなども活用されるようになっています。
管理・アフター
不動産会社は、空室対応や内見対応、契約更新など幅広い管理業務を処理しなければなりません。これらを全般的に管理したり支援したりする不動産テックツールが存在します。また、不動産会社だけではなく不動産オーナーにも利用してもらえるものがあり、これを利用すればさらにスムーズな業務の遂行が可能です。
不動産情報
不動産全般に関する幅広い情報を提供したり、分析ツールを利用できたりするサービス群です。大量の不動産情報を収集していて、これを活用することで、不動産のリスクを評価したり収益が期待できるか判断したりできます。
地価の変動など、求める情報の内容によっては、自信で行うデータ収集に限界を感じる場合があります。しかし、専門的な不動産テックを利用すれば、このような情報も確実に収集できるのです。
物件情報・メディア
物件紹介サイトなど、物件情報が集約されているWebサイトやサービスです。簡単に不動産を探し出せるものであれば、全般的に該当すると考えましょう。
また、物件そのものの紹介だけではなく、不動産を活かすためのナレッジや契約時のポイントなどを解説しているメディアがあります。これらについても、不動産テックの一種だと考えて良いでしょう。
価格可視化・査定
AIなどの機能を利用して、不動産を査定したり不動産価格のデータを可視化したりする不動産テックが登場しています。今までは、専門家へ依頼するしかありませんでしたが、現在は自分自身で情報を得られるのです。複数のサービスを比較して、価格の妥当性を評価するなど、今までとは異なり不動産会社以外が主体の取引を実現しやすくなります。
スペースシェアリング
不動産全体やその一部など、Webサイトやアプリなどを活用し、外部に共有することで、有効活用するためのサービスです。不動産オーナーと利用者をつなぐことで、空きスペースの有効活用を目指します。
特徴としては、幅広い不動産を扱っていたり、短期的な契約に対応していたりすることが挙げられます。今までの不動産契約では、思うように契約できなかった要件でも、スペースシェアリングならば解決できることがあるのです。
マッチング
インターネットを活用し、不動産オーナーと入居者を繋ぎやすくする不動産テックです。スペースシェアリングと似ている部分がありますが、より用途が絞られていると考えましょう。例えば、居住用物件や商業用物件などで、入居者に一定の制限があります。
また、不動産を見つけるだけではなく、職人や様々な業者を見つけ出すことも可能です。リフォーム作業のなどの依頼先を見つけることは難しいため、これらについても比較しながら探し出せるのです。
リフォーム・リノベーション
近年は、リフォームやリノベーションが完了した不動産に一定の需要があります。そのため、これらの不動産を専門とした仲介サイトなどが登場するようになりました。より専門的であるため、マッチングとは少々使い分けられています。
また、不動産オーナー向けに、リフォームやリノベーションを提案する不動産テックも登場しました。希望する条件を示すことで、どのような手法があるのか提示したり、具体的な業者を紹介したりしてくれるものです。不動産を探す側も保有する側も、リフォームやリノベーションを活用しやすくなっています。
IoT
不動産の利便性を高めるために、センサーやカメラ、無線通信などIoTの導入が進んでいます。例えば、外出先から室内の家電製品を操作する技術は、代表的なIoTによる不動産テックです。
IoTは入居者の利便性を高めるだけでなく、不動産業者の利便性を高めてくれます。例えば、電子的な鍵を活用することで、受け渡しの手間を削減できるのです。現時点でも広がりを見せる不動産テックであり、今後もさらに活用されるでしょう。
VR・AR
VR(Virtual Reality)やAR(Augmented Reality)を活用して、現地を訪問せずとも不動産の状況を視覚的に知れる不動産テックが登場しました。本来、物件の訪問には移動という手間が発生しますが、これらの不動産テックによって問題が解決されています。時間とお金が節約され、より素早く不動産の契約に漕ぎ着けられるのです。
生成AI
不動産業界では大量のデータを分析するためにAIが導入されるようになっています。また、その結果を自動的に出力するために、生成AIも導入されるようになりました。例えば、不動産の価格査定をAIが、築年数や立地、国土交通省のデータなどから算出し、それを価格と理由に分けて出力するものです。今までは、価格の査定までしかできませんでしたが、生成AIの進化により、理由を文章で示すことまで実現できるようになっています。また、文章だけではなくグラフを画像で出力し、視覚的な情報を増やしてくれる生成AIも登場しました。
不動産テック成功事例
不動産テックはいくつもの種類があり、成功事例も様々であるため、皆さんがイメージしやすいものを紹介します。
不動産データプラットフォームの導入
不動産事業を営む大手企業の事例では、業務を効率化するために不動産データを共有したり、過去データを保存して分析できるプラットフォームを導入しました。複数の不動産テックが集約されたもので、日々の業務で幅広く役立つものです。
例えば、過去のデータがひとつのプラットフォームに集約されていなかったことで、データを利用する際に点在しているデータを収集する業務が発生していました。しかし、プラットフォームを導入することによって、個別のシステムにアクセスして収集する必要はなくなり、複数のデータソースでも簡単に情報収集できるようになっています。また、このプラットフォーム上で外部のデータを自動的に収集する仕組みを導入し、常に最新の情報も内部データと同様に参照できるようにしました。
このようなデータの集約によって、業務の効率が大幅に向上し、残業時間の削減につながっています。また、集約した大量のデータを多角的に分析できる仕組みも同プラットフォームに構築したことから、分析の精度が向上し、適正価格での不動産売買や賃料の設定などを素早く実現できるようになりました。
電子契約の導入
フジ住宅株式会社の事例では、契約における顧客の負担軽減や社内の業務改善のために、電子契約ツールを導入しています。従来の契約では、紙が主流であったため原紙のやり取りに時間を要したり、大量の書類の中から契約に必要なものを見つけるための時間を要していました。これを電子化することによって、顧客はスムーズに契約を結べるようになり、また社内の業務もスムーズに進むようになっています。
また、電子契約を利用することによって、契約に必要な印紙代が削減できるなどのメリットも生み出しました。不動産の契約では、印紙代が高額になるケースが多いため、これを削減できるようになったことも大きなメリットです。
内見予約の管理
中規模な不動産会社の事例では、内見予約の対応のために別の業務が中断されるという課題を持っていました。また、営業時間外に対応する仕組みを導入しておらず、すでにツールなどを導入して時間外にも対応できる他社に遅れを取っていた状況です。そこで、内見予約の受付から管理までを効率化できる不動産デスクを導入し、これらの問題を一気に解決しました。
また、顧客対応がスムーズになっただけではなく、業務の中断回数が減ったことで社内の業務効率化にもつながっています。残業時間が減少したり、人間が対応しなければならないことに注力できるようになったことで、全体として良い方向へと進みました。
不動産業界のこれから
不動産テックは年々増えている状況であり、今後は不動産業界のIT化がより進むでしょう。業務の効率化が当たり前となり、これに乗り遅れてしまうと、競合他社に劣ってしまうことになりかねません。
特に、AI関連のサービスが増えていて、今まで以上にデータ活用などに取り組みやすくなりました。大量のデータを分析し、不動産の契約やビジネス全般に活かす時代となっているのです。データ活用をいかに効果的に行うことができるか、が不動産業界において先進的かつ先鋭的な企業として生き残ることができるといえるでしょう。
少子高齢化による不動産業界の人手不足やアナログな業務が残っているなど、不動産業界はいくつもの課題を抱えています。そのような業界だからこそ、アナログな業務を減らすためにデータを活用できるようになれば、大きな強みになると考えられます。以下の記事でも不動産業界の今後について考察しているため是非ご参考にしてください。
不動産テックを成功させるポイント
不動産テックを成功させるポイントは以下の通りです。
まずはスモールスタート
何か新しい不動産テックを導入する際は、スモールスタートを心がけましょう。いきなりシステムを導入し、大規模な業務改革や運用を始めるのではなく、自社で行っている業務のうち、簡単な部分からツールなどに置き換えていきます。
例えば、手作業でWeb上の不動産データを収集しているならば、この部分を自動化することが考えられます。スクレイピングと呼ばれる手法を採用した、情報収集の不動産テックを活用することで、業務負荷の軽減が可能です。比較的簡単に導入できるため、不動産テックの価値があるかどうか気軽に評価できるでしょう。
頻繁に情報収集
現在の不動産テックは、新しいツールやサービスが次々と登場している状況です。逆に、多くの関係者から使われなくなったサービスは、気づかぬうちに終了していることがあります。これらの情報を頻繁に収集し、最新の情報を踏まえて、どの不動産テックが良いか判断しなければなりません。
もちろん、最新の不動産テックが良いとは断言できません。それぞれにメリットやデメリットがあるため、評価して総合的に判断することが成功へのポイントです。
まとめ
不動産テックは年々新しいものが登場し、既存のサービスについても進化が続いています。AIなど世の中のテクノロジーが進化することに伴って、不動産テックも新しいものが登場するでしょう。また、事例でも紹介したとおり、データを大量に収集して売買価格や賃料の設定に活用している事例が存在します。これからの時代、AIやデータ関連の活用が不動産テックの中でも重要になってくるでしょう。
自社でも導入してみたいと考える人は多いと思われますが、ここで重要となるのはスモールスタートを意識することです。不動産データの自動収集など、小さな業務から不動産テックを導入し、そこで効果が出れば新しい不動産テックを導入します。
もし、スタートとしてデータ収集の自動化を導入してみたいならば、不動産関係のWebサイトから不動産データの収集ができるスクレイピング代行サービスの活用をおすすめします。弊社は、お客様のご要望に合わせたかたちでデータのご提供が可能です。是非ともご検討ください。