
日本ではDXの重要性が叫ばれ続け、実際に行動に移している企業は多いでしょう。しかし、DXを進めるためにはまとまったコストが必要となり、これが足かせになってしまうケースが見受けられます。
政府としてもこの状況を危惧しており、打開策としてDX投資促進税制と呼ばれる制度が提供されています。簡単に述べると、DXを推進する企業の金銭的な負担を抑えるためのものです。今回はDXの担当者に向けて、DX投資促進税制とはどのような制度であり、どのように利用すればよいのかを解説します。
DX投資促進税制とは
デジタルトランスフォーメーション(DX)投資促進税制は、2021年6月に成立した産業競争力強化法などの改正に関連してスタートした制度です。経済産業省が中心となり運営されていて、期日が延長され2024年度末まで利用できるようになりました。
一般的にDXを推進するためにはコストがかかります。そのため、企業の経営状況によっては「DXに取り組みたいが金銭的な負担を賄えない」という状況に陥ってしまうのです。これでは日本として産業が衰退したり競争力が低下したりするため、DX投資促進税制によって可能な限り負担を軽減するようになりました。具体的には以下のとおり税額控除か特別償却の適用を受けられます。
対象設備 | 税額控除 | 特別償却 |
---|---|---|
ソフトウェア繰延資産器具備品機械装置 |
基本:3% デジタル要件でグループ外の他法人とデータ連携する場合:5% |
30% |
税額控除と特別償却は申請者がどちらかを選択します。一般的には税額控除が良いとされていますが、顧問税理士などのアドバイスを受けて決定しましょう。対象設備の詳細は以下で解説しているため、そちらを参考にしてください。
ただ、DX投資促進税制の適用には条件があるため「DXを推進すれば無条件で利用できる」というわけではありません。具体的な対象や要件などは以下で解説します。
DX投資促進税制の計算例
DX投資促進税制の特別償却では、取得金額の30%を上限として普通償却限度額と同時に当期の償却費に計上できます。例えば、12月決算の法人が10月に取得金額1,200万円で耐用年数が5年のソフトウェアを取得したとします。この法人の控除適用前法人税額が600万円である場合の計算は以下のとおりです。
- 普通償却限度額:1,200万円×1/5×3/12=60万円
- 特別償却限度額:1,2000万円×30%=360万円
- 当期償却限度:60万円+360万円=420万円
続いて、税額控除では、取得価格の3%相当額(条件を満たすと4%相当額)が控除されます。ただ、控除限度額が控除適用前法人税額の20%相当を超える場合は、調整前法人税の20%が控除の限度額とみなされる仕組みです。例えば、12月決算の法人が10月に取得金額1,200万円で耐用年数が5年のソフトウェアを取得したとします。この法人の控除適用前法人税額が600万円である場合の計算は以下のとおりです。
- 税額控除限度額:1,200万円×3%=36万円
- 控除適用前法人税額の20%:600万円×20%=120万円
この場合、税額控除限度額が控除適用前法人税額の20%を下回っているため、36万円がDX投資促進税制で得られる優遇となります。
DX投資促進税制の対象
DX投資促進税制を利用するためには制度の詳細を理解することが重要であるため解説します。
対象者
DX投資促進税制を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 青色申告書を提出する法人であること
- 産業競争力強化法の認定事業適応事業者であること
- 情報技術適応計画(DX投資促進税制)が主務大臣に認定されていること
事前にDX認定を受けたり計画を認定してもらったりすることが対象者となるために必須です。
対象となる設備
DX投資促進税制の対象となる設備は以下の4分野に限られます。
- ソフトウェア
- クラウドへの移行に関わる初期費用のうち繰延資産
- ソフトウェアやクラウドと連携して利用する器具備品
- ソフトウェアやクラウドと連携して利用する機械装置
ソフトウェアを中心にクラウド化に際して発生する初期費用の一部や器具備品・機械装置なども対象となる可能性があります。具体的に対象となる設備については経済産業省からQ&Aが公開されているため参考にすると良いでしょう。
期日
改正後のDX投資促進税制は2024年度末つまり2025年3月31日が期限と定められています。これまでに以下で解説する事業適応計画が認定され、関連するDXの設備を導入しなければなりません。
重要となるのは、申請に必要となるDX認定の取得に時間が必要となり、DX投資促進税制の申請が認められるにも時間が必要となる点です。何も着手していない状態からであると4ヶ月から5ヶ月は必要になるため、可能な限り早く着手することが求められます。
DX投資促進税制の認定要件
DX投資促進税制の認定要件は大きく2つの観点に分かれています。
デジタル(D)要件
デジタル要件は以下の3つの基準を満たす必要があります。
- データ連携:他の法人等が有するデータ又は事業者がセンサー等を利用して新たに取得するデータと内部データとを合わせて連携する
- クラウド技術の活用:クラウドベースのシステムや技術を積極的に採用する
- DX認定の取得:情報処理推進機構(IPA)からDX認定を受ける
主にクラウド環境を活用してデータ連携の基盤を構築、それらを活用する仕組みづくりが求められる要件です。
企業変革(X)要件
企業変革要件は以下の3つの基準を満たす必要があります。
- 全社レベルでの売上上昇が見込まれる
- 成長性の高い海外市場の獲得を図る
- 全社の意思決定に基づくものである
一部の部門だけに適用するDXだけではなく、全社的な変革を伴うものです。例えば、マーケティングの方式を見直すなど、部門を超えて売上の向上につながる取り組みが求められる要件です。
DX投資促進税制の申請方法
具体的にDX投資促進税制を申請する方法について解説していきます。
DX認定の取得
最初にDX認定を取得しておかなければなりません。具体的な方法については、後ほど解説しますが「デジタルガバナンス・コード」と呼ばれる基準を満たすことが必須です。これは簡単に述べると、DXを推進する企業に向けた重要なガイドラインで、どのようにDXへ取り組めばよいかが示されています。経済産業省から示されている指標であり、まずはこれに沿ったDXを進めなければならないのです。なお、認定は独立行政法人情報処理推進機構が担当します。申し込みすれば、速やかに取得できるものではなく、60営業日程度が必要であるとされているため、DX投資促進税制を利用する際は注意が必要です。
「事業適応計画」の策定と認定
DX投資促進税制の申請にあたっては、いくつかの資料作成が必要です。その中でも「事業適応計画」が重要であり、これの策定に力を入れなければなりません。経済産業省が、どのような内容の記載を求めているかを公開しており、主な要件は以下の通りです。
- 10年以内の計画期間
- 新需要の開拓
- 財務の健全性
- 前向きな取り組み
- 全社的な取り組み
最低限はこれらの観点を満たすように事業適応計画の内容を検討し策定しなければなりません。その後、関連する資料も同時に作成し、まとめて提出します。提出した内容は、経済産業省などによる審査が進められ、問題なければDX投資促進税制の適用に向けて認定される仕組みです。
DX資産の取得(事業適応計画の遂行)
事業適応計画が承認されたならば、その計画に基づいて、必要なDX資産を取得します。また、その資産を活用してDXを進めていかなければなりません。なお、重要なポイントとして、税制適用期間内にその資産をビジネスで活用することが求められます。その結果を踏まえて、DX投資促進税制の適用時に「実施状況報告書」を作成しなければなりません。ここで、どのようなDXを進めたかを申告する必要があるのです。もし適切にDXを進めていなければ、報告書の内容が否定され、DX投資促進税制の適用を受けられなくなってしまいます。
税務申告
DX資産の取得やビジネスでの活用が計画通り進められているならば、続いては税務申告が必要です。手続きは以下の資料を揃えて管轄の税務署で依頼します。
- 事業適応計画の申請書(認定計画)の写し
- 事業適応計画の認定書の写し
- 事業適応計画の認定確認書の写し
DX投資促進税制の注意点
DX投資促進税制の活用には注意点があるため、以下を意識するようにしてください。
旧DX投資促進税制との併用は不可
DX投資促進税制は、解説したとおり企業がDXに関連する投資を実施する際の税制優遇制度です。ただ、同一の投資について旧DX投資促進税制と併用することは認められていません。具体的には、令和4年度までのDX投資促進税制(旧制度)を利用した場合に併用が不可能です。もし、一連のDXで何かしらの優遇制度を受けたいと考えるならば、DX投資促進税制以外の制度で利用できるものがないか調査する必要があります。
追加の設備を取得する際は変更認定が必要
解説した通り、DX投資促進税制を利用する際は事前に計画を承認してもらわなければなりません。そして、それに沿った事業計画を進めることが求められています。言い換えると、もし何かしら変更がある際は、事前に申請して認定してもらうことが求められます。仮にDXに関係あるものでも、事前に承認された計画に入っていないものであれば、適用は受けられないのです。
そのため、もし設備を追加で導入する必要があるならば、事前に変更の手続きを済ませなければなりません。承認された計画は、変更できないということはなく、適切な手順を踏めば変更できます。もちろん、変更後の計画について承認されるかどうかは別ですが、何かしら追加の計画がある際は、申請が必要であることを頭に入れておきましょう。
クラウド化の使用料などは含まれない
DX化に当たっては、システムをクラウドに配置するケースが多くあります。しかし、システムをクラウド化した後の使用料は含まれないため注意しましょう。ここでの使用料とは月額支払う料金などを指します。ただし、新しくクラウドサービスを導入する際に発生する初期費用は、DX投資促進税制の対象となる可能性があります。例えば、クラウドサービスを適切に構築するために、専門のベンダーに依頼し、それが繰延資産に該当するならば、DX投資促進税制の対象となるのです。とはいえ、状況により変化するため、繰延資産に該当するかどうかなどは、顧問税理士や所轄の税務署に問い合わせしておいた方が良いでしょう。勝手な判断で進めてしまうと、後からトラブルになりかねません。
リース契約は内容に左右される
リース契約は種類によって適用内容が異なります。まず、所有権移転リース取引については、税額控除と特別償却のどちらも利用が可能です。対して所有権移転外リース契約は、税額控除しか対象となりません。どちらの方式で契約しているかによって、利用できるかどうかが左右される部分があるため、必ず確認しておきましょう。また、リース取引にはオペレーティングリース契約と呼ばれるものがあります。しかし、これは税額控除も特別償却もどちらも対象外であるため、併せて注意が必要です。
前向きな取り組みを示すことが重要
DX投資促進税制には前向きな取り組みを記載する部分があります。内容が重視される傾向にあるため、十分に考えて対応するようにしましょう。一般的にDXといえば、業務の効率化やシステム化を指しますが、それだけでは承認されにくい状況です。例えば、前向きな取り組みには、この先数年間でどの程度の売上を向上させる予定であるかを示すことが求められています。具体的な数字かつ実現可能な値を示すことによって、DXを通じて業績の向上に前向きな取り組みがあると評価されるのです。これは一例ですが、単なるシステム化にとどまらず、それが業績にどのような効果を与えるかを現実的な値で示すことが重要です。
DX投資促進税制を得るのに必須!DX認定の取得方法
DX認定は独立行政法人情報処理推進機構へ審査を依頼することで取得できる認定です。「情報処理の促進に関する法律」に基づき、「デジタルガバナンス・コード」の基本的事項に対応する企業であることを示しています。
DX投資促進税制の申請方法でも触れましたが、DX認定の申請書はデジタルガバナンス・コードに沿った設問が設けられています。そのため、デジタルガバナンス・コードの柱である以下の事項を理解することが必須です。
- ビジョン・ビジネスモデル
- 戦略:組織づくり・人材・企業文化に関する方策
- 戦略:ITシステム・デジタル技術活用環境の整備に関する方策
- 成果と重要な成果指標
- ガバナンスシステム
これに対応するために、社内の体制を整えたり現状の問題を確認するための自己診断を実施したりする必要があります。また、デジタルガバナンス・コードの概要を理解するだけでなく、それを踏まえて具体的な行動計画やDXの実施方法を示さなければなりません。具体的に何を述べればよいのか難しいため他社事例を参考にすると良いでしょう。弊社のPigUPではDXの具体例を紹介しているため、ぜひ参考にしてください。
また、DXの戦略を立てるためには、データドリブンな意思決定が重要です。もし、データに基づいた計画の建て方に不安を感じるならば、関連記事を御覧ください。
まとめ
DX投資促進税制はDXの推進にあたって発生する金銭的な負担を軽減するための制度です。利用するために、まずはDX認定を取得する必要があるため、こちらの申請から進めていきましょう。DX認定を取得するためには、データドリブンなDX戦略を策定することが重要です。
ただ、データドリブンな戦略を策定するためには、十分な量と質のデータによる分析が大切です。分析に役立てられるデータはWeb上に数多く存在するため、これを活用すると良いでしょう。Webデータを活用したい場合はスクレイピングと呼ばれる技術を利用した情報収集が効率的ですが、自社で内製することは技術的にも法規制面でも難しいはずです。そのため、DX認定の取得に向けてスクレイピングを活用したい場合には弊社PigDataにご相談ください。