
近年は企業内でDXを進めることが当たり前となり、専用の部署や担当者が設けられることも増えています。既存の部署に新しいポジションを設けることもあれば、DX推進室など新しい部署から設立することもあるぐらいです。どちらの場合も、今まではDX以外の業務を担当していた人がアサインされるでしょう。ただ、このような部署に配属されて役割を与えられたとしても、どこから手をつけて事業を進めれば良いのか判断できないのではないでしょうか。今回は、DX推進室など社内DXの担当者が、プロジェクトを成功させるために必要な知識についてまとめていきます。
社内DXとは
社内DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して企業内部の業務プロセスや働き方を効率化したり革新したりする取り組みです。例えば、RPAを用いた業務の自動化、勤怠管理システムなどクラウドサービスの導入による手作業の廃止などが考えられます。社内DXはデジタル化によって業務を変革し、業務効率の向上やコスト削減を実現するのです。
対して、社外DXは企業と顧客や取引先との関係にデジタル技術を採用する取り組みです。例えば、オンライン販売チャネルの構築、データ分析を活用した顧客体験の向上、AIによるカスタマーサポートの提供などが考えられます。社外DXの目的は、新たなビジネスモデルの構築や顧客満足度の向上、競争力の強化といえるでしょう。
社内DXが企業内部の効率化を重視するのに対し、社外DXは外部との関係性強化や市場での競争優位性の確立に焦点を当てた活動なのです。
社内DXが重要な理由
最初に、社内DXが必要な理由についてまとめていきます。
新しい働き方を実現できる
社内DXが重要な理由の中でも特に注目したいことが、新しい働き方を実現できることです。DXはデジタル化だけに注目されますが、業務フローの見直しなど、根本的な働き方の改善も含まれています。そのため、社内DXを推進することによって、今までの業務を根本的に見直し、働き方改革を実現できるのです。
例えば、今まで手動で対応していた業務を自動化することによって、業務の効率化が可能です。作業量が多く、残業が当たり前になっている状況でも、DXで自動化ツールを導入すれば残業をゼロにできるかもしれません。これは極端ですが、このような社内DXによって全社的に残業を減らしプライベートも重視した新しい働き方などを実現しやすくなるのです。
人手不足の解消につながる
近年は、労働人口の減少に伴い、多くの企業で人手不足が問題視されています。このような状況で、社内DXを進めると、人手不足を解消できるかもしれません。これまで業務過多で残業の多い部署でも、今までと同じ人数で、同じだけの業務を負担なくこなせるようになるのです。
例えば、上記でも触れたように、業務の自動化ツールを導入すれば、人間ではなくコンピューターが業務を進めてくれます。人間は人間しか対応できない部分に注力することで、担当する業務の範囲が少なくなり、人手不足でも滞りなく業務が進むようになるのです。働き方改革に繋がる部分でもありますが、社内DXの推進や成功が、人手不足を解消する鍵だと表現しても過言ではないでしょう。
社内DXを進めるステップ
社内DXを進めるためには、基本的な流れを理解することが重要です。状況に応じて少し変化しますが、以下のステップで考えましょう。
DX化の優先順位を決定
最初に考えなければならないことは、DX化の優先順位を定めることです。社内DXで失敗しやすい大きな理由として、DX化を一気に進めてしまうということが挙げられます。社内のシステムを一括で変更しようとすることで、思わぬトラブルが多発する可能性があります。優先順位をつけてスモールスタートを心がけましょう。
優先順位のつけ方はいくつもありますが「DX化の難易度」か「業務の重要性」のどちらかで決定することをおすすめします。もし、DXに詳しい人材がいないならば、難易度や業務の重要性が低いものからDX化すべきです。重要な業務からDX化すると、失敗してしまったときに、業務へ大きなインパクトを与えてしまいます。
DXチームの発足
DX推進室など専門の部署を中心として、具体的にDX化する業務に沿ったDXチームを発足するようにしましょう。どのようなDXにおいても、業務担当者の協力は必要不可欠です。DX推進室の担当者が中心になるべきですが、業務フローの洗い出しなどに協力してもらえるメンバーをアサインしましょう。なお、DX化にあたってはある程度の業務量が見込まれるため、既存の業務へ影響を与えないように、業務量の調節などを依頼することも求められます。DX推進室だけで業務プロセスを見直そうとしても失敗に終わることが大半であるため、最初のチーム作りは念入りに進めなければなりません。
業務プロセスのデジタル化を検討
既存の業務プロセスを洗い出して、デジタル化することを心がけます。DXはITツールやシステムを活用して業務を変革していくことが重要です。そのため、変革に向けた最初のステップとしてアナログな業務をシステムなどを利用した業務へ置き換えることを検討していきましょう。例えば、紙に手書きしている業務があるならば、パソコンでツールに打ち込む業務に置き換える必要があります。
デジタル化にあたっては、既存の業務を抜け漏れなく把握することが重要です。単純にアナログな部分をデジタルに置き換えるだけでは、不都合が生じてスムーズな業務が実現できなくなるかもしれません。最初から最後まで洗い出し、その中でもアナログな部分をまずは把握すべきです。そして、デジタルへ置き換えても業務に不都合が生じないと考えられる部分から順番に置き換えていくことが求められます。
専用ツールの導入
業務を最適化できるデジタル化の見込みが立ったならば、専用ツールを導入していきます。業務に適したツールはいくつも存在する可能性があるため、どのツールが最適であるのかを見極めて導入しなければなりません。場合によっては、お試し期間などを活用して、実際にツールを利用し、どのツールが最適であるか検証する必要があります。問題なく、DXツールの導入ができたならば、そこから運用をスタートしなければなりません。ツールの導入はあくまでも手段であり、最終的な目的は、業務の効率化や働き方改革、など様々です。社内DXが、ツールの導入だけで終わってしまうケースが見受けられるため、その点は勘違いしないようにしましょう。
専用ツールの教育と改善
ツールを運用するためには、社内の利用者に使い方などを教育しなければなりません。ツールを導入しても、担当者が使いこなせなければ意味はないため、その点も計画的に進めていくことが求められます。もし、ツールの使い勝手などに何かしら不都合があるならば、フィードバックを受けて、定期的に改善していくなどの対応も必要です。
社内DXに役立つシステム
社内DXにおいて、様々なシステムの活用が考えられます。続いては、具体的に導入したいシステムの概要と導入によるメリットについて解説していきます。
RPA
RPAは定型的な業務プロセスを自動化するためのツールです。導入することによって、単純な作業を自動化したり、人間が処理すると時間のかかる作業を効率化したりできます。例えば、大量のデータをシステムに入力する作業をRPAを用いて自動化することによって、人的ミスを減らしたり、業務の効率そのものを高めたりできるのです。
全ての作業をRPAに置き換えられるわけではありませんが、RPAで置き換えられる部分は置き換え、人間は人間しかできない部分に注力することで、業務全体のスピードや精度を高めることが可能です。
オンライン会議システム
オンライン会議システムは、コンピュータやスマートフォンなどに専用アプリを導入して、会議や情報共有ができるものです。複数人での音声通話はもちろん、画面共有などがスムーズに実施できるため、遠隔地でも会議を進めやすくなります。近年は、リモートワークや業務のグローバル化が進んでおり、コミュニケーションを円滑にするために必要不可欠なツールです。導入することで物理的に離れている環境でも、スムーズなコミュニケーションを実現できます。
また、オンラインで効率よく業務をこなせるようになることで、移動時間やコストの削減が可能です。今まで移動時間に割かれていた部分を業務に充当できるようになるでしょう。働き方を見直すことで、従業員に大きな負担をかけることなく、より難易度の高い業務もこなせるようになるはずです。
ビジネスチャットツール
ビジネスチャットツールは、リアルタイムのコミュニケーションを活発化させるものです。メールよりも気軽にコミュニケーションがとれるもので、迅速にコミュニケーションを実現するために導入されます。オンライン会議システムとの違いは、基本的にチャット機能をメインとしていることです。近年は機能の拡張によって画面共有などができるものも増えてきましたが、あくまでもチャットが中心だと考えましょう。
また、SlackやMicrosoft Teamsなど、チャンネル機能が用意されているツールも増えてきました。このようなものであれば、それぞれ情報を整理できるようになっているため、チャット機能だけではなく、情報を集約するためのツールとして利用されることもあります。
オンラインストレージ
オンラインストレージは、クラウド上にファイルを保存するシステムです。ローカルやオンプレミスサーバーに保存するよりも、安全かつ効率よく、共有できることが特徴です。非常に多くのサービスが提供されていて、幅広い企業で、導入されています。また、多くのツールでアクセス権の設定や、バージョン管理機能が提供されています。そのため、必要なメンバーにだけ情報を共有したり、社内ではなく、社外のメンバーに、一部の情報を開示したりするような場面でも利用が可能です。
BIツール
BIツールは、データを可視化して、インサイトを得るためのツールです。例えば、Tableauなどの場合、複雑なデータをグラフ化してダッシュボードに表示してくれます。データを視覚化することによって、経営層などが直感的に意思決定することを支援するものです。近年は、データドリブンな意思決定が求められていますが、大量のデータを人間が理解するのは容易ではありません。そのため、社内DXの一環として可視化するためのツールを導入し、データをより効率よく活用できるようにしています。
データ収集システム
データ収集システムは、業務に関連するあらゆるデータを収集したり、集約したりするためのシステムです。データレイクやデータウェアハウスと呼ばれるものが代表例であると理解すればよいでしょう。格納するデータの収集方法は様々ありますが、DXの一環で自動化するならば専用のツールやサービスを導入してデータを蓄積していく方法をおすすめします。上記で解説したBIツールと組み合わせて利用することも可能で、データに基づいた意思決定を支援してくれるものです。
社内DXの成功事例
実際に社内DXが成功した事例から、どのような取り組みが必要となるか学ぶことが大切です。
株式会社リコー
リコーはDXにより「デジタルサービスの会社」への変革を進め、2022年には「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」に選定されました。非常に多くの取り組みが注目されていますが、特にAI技術とデータ活用による業務効率化が注目されています。
例えば、機器の保守サポート業務において、AIを活用したチャットボットを導入し、業務効率化とダウンタイムの減少を実現しました。また、RPAやAIを活用した業務プロセス改革も全社で推進を続けています。サポート業務のみならず、自社の生産現場でも、AI導入による高品質化と省力化を目指していることが特徴です。
株式会社ブリヂストン
ブリヂストンは、タイヤ製造業界の中でもDXを積極的に推進していることが特徴です。例えば、製造プロセスの効率化と品質向上を目指し、IoTやAIを活用した「スマートファクトリー」を実現しています。具体的には、センサーを使用した製造機器の状態をリアルタイム監視や、異常を早期に検知するシステムの構築などです。
また、データ分析により製造プロセスの最適化を図り、コスト削減と生産性向上を実現しています。複数のデータを一元管理したり分析したりするプラットフォームを構築し、それを軸としたDXを続けているのです。
株式会社再春館製薬所
再春館製薬所は、デジタル技術を活用して顧客体験の向上と業務効率化に力を入れています。特に、CRMの導入と蓄積されたデータによる、顧客のパーソナライズを海外にも適用していることが特徴です。越境ECを重視している同社は、日本の顧客から得られたデータを分析し「海外でどのようにマーケティングすれば良いか」の分析にも力を入れ、海外での顧客満足度の向上に力を入れています。
また、コールセンターへAIを導入するなど、日頃の業務負荷を軽減する取り組みも増えていることが特徴です。2019年頃から比較的早い段階でAIを軸としたDXが進められていますが、現在もブラッシュアップされた基盤が利用されています。
社内DX成功の秘訣
社内DXの成功には秘訣があるため、積極的に取り入れてみましょう。
DXの目的を明確にする
社内DXを推進する際は、目的を明確に持つことが重要です。大雑把な目標ではなく、以下のように具体的な目標を持つようにしましょう。
- 残業時間20時間から5時間まで削減する
- 作業をミスによる品質の低下を年間3件以下に抑える
- データ分析作業に必要な時間を半分にし、意思決定のスピードを高める
これらは一例ですが、具体的にしておくことで、DXの過程でどのようなツールが必要かが明確となります。また、関係者に対して「なぜ社内DXが必要となるのか」を周知しやすくなり、協力もしてもらいやすくなるでしょう。
トップダウンで進める
業務の変革を必要とする作業であるため、トップダウンで推進することが重要です。小規模な会社であれば社長が中心となり、中規模の会社でも本部長などある程度のポジションに就く人材が中心となるべきです。特に、業務フローの見直しが必要となるならば、一定のポジション以上の人材が関わることが社内DX推進において必須と考えましょう。さもなければスムーズに新しいフローを生み出せず、DXが進まなくなってしまいます。思い切った決断が必要となるため、重要な判断を下せる人材のもとトップダウンで推し進めるべきです。
社内でDX人材を育成・確保する
継続的なDXを成功させるためにも、社内でDX人材を確保したり育成したりすることが重要です。社内DX自体は、外部のベンダーなどから人材を確保して推進できます。ただ、長い目で見ると社内にDX人材が必要だと考えましょう。即座に確保することが難しいならば、ポテンシャルのある人材を育成していくなどの対応が求められます。
特に、社内DXは一度きりの取り組みではなく、継続的な施策が求められます。例えば、業務が変化した際や導入しているツールがバージョンアップした際は、何かしらの対応が必要でしょう。社内にDX人材がいないと、問題が発生するたび毎回コストが生じたりスピード感に欠けたりしてしまいます。
課題に適したツールを見極める
現状の課題を踏まえて社内DXに最適なツールを見極める作業が必要です。「とにかくツールを導入すれば良い」というものではなく、DXの目的や現状の課題を踏まえなければなりません。
また同じ目的を解決するツールにもそれぞれ特徴があるため、これらの中でも比較が必要です。例えば、RPAは日本製と海外製では実装されている機能に違いがあります。ツールを比較して、問題解決に最適なものを見極めなければなりません。
データを活用する
デジタル化によって、多くのデータが収集できるようになるため、これらの活用を考えるべきです。データ収集から活用までの仕組みを社内DXで実現できるように心がけましょう。ただ、データを活用する際は、必要な内容を多角的に収集することが重要です。社内の情報だけでは内容に偏りが生じる可能性があるため、時には社外からも収集する必要があります。例えば、Webサイトの情報を収集して、競合他社がどのような製品を販売しているのか、定期的にチェックするなどです。
社内に蓄積されているデータは非常に重要な資産であり、積極的にDXで活用したいものではあります。ただ、それが完璧な情報源とは言い切れません。必要に応じて複数のデータを組み合わせた意思決定を実現できるようにしましょう。
社内DXにおけるデータ活用の課題
社内DXにおいてはデータを活用することが重要です。ただ、これには課題があるため、そこを理解していきましょう。
データのサイロ化
社内DXでデータを活用する際は、データのサイロ化を考慮しなければなりません。これは簡単に述べると、それぞれの組織が個別にシステムを構築していることで、お互いに利用しづらい状況を指します。例えば、製造部門と営業部門が別々にシステムを構築して、それぞれがデータを保有しているケースが多くあります。これらのデータは相互に利用したり、共有したりすることを想定されておらず、組み合わせて活用できません。このような状況をデータのサイロ化と呼びます。
データのサイロ化が顕著な日本の企業では、データを活用しようとしても、スムーズに進まないことが多くあります。そのため、最初にデータウェアハウスを構築するなどして、データを活用しやすい状況を整えなければなりません。社内DXでは、データの活用が鍵を握るため、まずは活用しやすい状況を作り出しましょう。
DX人材不足
DXを進めるためには、デジタル化や業務フローの見直しに詳しいDX人材が求められます。この役割をDX推進室の担当者が担えれば良いですが、実際には難しいケースが大半です。そのため、ベンダーなどに協力を仰いでDX化を進めなければなりません。
ただ、ベンダーなどにおいても、DXに詳しい人材は限られているのが現状です。多くの企業でDX化が進められているため、スキルの高い人材は思うように確保できません。DX人材の不足は、DX化を進めるにあたっての大きな課題となりかねないのです。
データ分析する適切なデータが収集できていない
DXにおいてデータ分析によって新しい知見などを得ることで業務改革のきっかけを得ることも可能ですが、そのためのデータが揃っていなければ意味はありません。社内にデータが蓄積されていないならば、外部データなどを利用して補完する必要があります。例えば製品の売上データを分析する際は、自社の売上情報に加えて、市場規模の変化や、他社製品の登場なども考慮する必要があります。
しかし、自社のシステムだけでは、自社製品の売り上げに関するデータしか得られません。そのため、外部データを活用して、市場規模の変化を把握したり、他社製品の登場や売り上げなどを考慮したりする必要があります。このようなデータは、自分たちで収集することもあれば、データを収集する企業から購入することも可能であり、必要に応じてその収集方法を選ばなければなりません。
まとめ
近年は働き方改革が進められていることもあり、社内の業務を効率化するための社内DXは非常に重要です。ただ、ポイントを押さえて、進めなければ、社内DXを成功させることはできません。今回は社内DXを進めるステップだけではなく、成功の秘訣や成功事例も紹介しているため、それらを踏まえてどのように社内DXを進めれば成功するかを考えてみましょう。
社内DXの推進にあたっては、データ活用を取り入れることが重要です。ただ、データ活用に際しては、社内に十分なデータが存在しないなどの課題もあるでしょう。そのため、もしデータが不足しているなどの課題を抱えるならば、外部からデータを収集しなければなりません。
外部からのデータ収集は、公的機関が発表しているものや業者が販売しているものを入手、あるいは自分たちでWebサイトから収集するなどが考えられます。特にWebサイトの情報を収集したいならば、スクレイピングと呼ばれる手法が有効です。Webサイトの情報を自動で収集し、必要な部分だけを抽出する技術です。弊社PigDataはスクレイピング代行サービスを提供しているため、外部のデータを収集したい際はぜひご相談ください。