
現在はDX(Digital Transformation)の重要性が強調されています。簡単に説明すると、業務のデジタル化を推進するもので、新しくシステムを導入することなどが該当すると考えましょう。
中小企業でもDXが進められていますが、残念ながら失敗に終わるケースも多くあります。今回は、DXに失敗する原因やその事例について学び、また成功事例を踏まえて、これから何をすべきか理解していきましょう。
DXの現状
DXについて正しい認識を持つために、日本の現状に目を向けていきましょう。
日本でDXが進んでいない
残念ながら、日本ではDXが進んでいるとはいえません。「IMD世界デジタル競争力ランキング」の2023年版を参照してみると、香港や台湾、韓国などが上位10位以内に入っているにも関わらず、日本は32位です。2017年の調査開始以来、過去最低を記録していてIT化や制度の整備などが整っていないことが示されています。DXだけが評価されているわけではありませんが、国際的にIT化の遅れが指摘されている状況です。
また、情報処理推進機構が発表する「DX白書2023」を参考にすると、日本でのDXは大企業が中心であり、中小企業はこれからの取り組みに期待する旨が書かれています。中小企業におけるDXの取り組みの遅れは顕著であるとの記載もあり、総合的に評価すると、日本ではDXが進んでいないといわざるを得ません。
DXが進まない原因
日本でDXが進まない理由はいくつもありますが、特に問題だと考えられるのは経営層の理解不足です。DXについて正しい認識を持てていないことで、DXの重要性を見落としていたり適切な方向へ牽引できていなかったりします。結果、DXに取り組もうとしても途中で挫折するなど、進まないまま終わってしまうのです。
また、DXに対応できる人材が少ないことも大きな理由と考えられます。日本ではIT人材の不足が問題視されていて、DXのように専門知識が求められる人材はさらに少ないのです。外部に依頼してDXを進めたいと考えていても、対応できるベンダーに限りがあり、結果的に中小企業は進めづらくなっています。
DXに失敗する理由
日本でDXに失敗する背景にはいくつもの理由があるため、それらの中から5つ解説します。
経営者の理解不足している
DXに失敗してしまう大きな理由として、経営層がDXの本質を理解していないことが挙げられます。「とにかくDXに取り組めば会社にとって良いことがある」とだけ認識し、適当な判断を下してしまうのです。結果、無駄なIT投資などが発生し、結果的にはDXが失敗に終わってしまいます。
一般的に「DXとはシステム化すること」と理解されがちですが、実際には「ITを活用したビジネスの変革」です。そのため、企業としてどのような変革を起こしたいか定まっていないと、DXを成功させることはできません。経営層がこれを理解して目的を定めていないと、DX全体が失敗に終わってしまいます。
デジタル化に対応できていない
DXを推進するためには「デジタル化」についての基盤が整っていなければなりません。これはコンピューターが導入されているなどハードウェア的な観点はもちろん、システムを利用する現場にITリテラシーが浸透しているなど人材的な観点も含みます。ある程度の基盤が存在していない状況で、DXを無理に推進しようとしても、失敗に終わってしまうことは想像に難くないでしょう。
ここで重要となるのは、上記でも触れた「DX=デジタル化化」ではないという部分です。単純にシステムを導入することは「システム化」「デジタライゼーション」と呼ばれるもので、DXとは少々異なります。もし、基盤が整っていないならば、DXの前にこのような取り組みから始めなければなりません。
デジタル化=ゴールと誤認している
デジタルシステムを導入するだけで満足してしまい「DX」という観点では失敗に終わることがあります。導入プロジェクトは成功したとしても、業務の変革は実現できないまま終わるのです。これでは、DXではなくデジタル化に過ぎません。
経営層が正しく理解できていないと「システムさえ導入すれば良い」という考えに陥りがちです。結果、システムの導入が目的になってしまい、その後の業務変革まで手が回りません。システムは導入してからがスタートであることを理解し、経営者はもちろん担当者や関係者のすべてが、導入自体がゴールだと認識しないことが重要です。
現場と連携できていない
DXを推進するにあたって、現場と連携できなければ失敗に終わる可能性が高まります。例えば、DXを推進するIT部門とそれを利用する現場が連携できていない状況です。DXは経営陣とIT部門で進められることが多く、意図的にコミュニケーションを取るなど連携することが求められます。
連携ができていなければ、現場が使いこなせないシステムが完成するかもしれません。また、使いこなせたとしても「業務を改善する」というDXの本質が叶わない可能性があります。DXの恩恵を受けるのは、主に現場であるため、それを頭に入れた推進を心がけることが重要です。
スモールスタートできない
スモールスタートせず大規模な業務変革を進めてしまうと、DXが失敗することになりかねません。全社的に改革したいケースは多いですが、基本的にはスモールスタートを心がけましょう。
一般的に、業務が短期間で大きく変化すると従業員に負担が生じてしまいます。部分的であればある程度は抑えられますが、多くの業務が一度に変化するとその変化に対応することに注力せねばならず、非常に大きな負担となってしまうのです。結果、業務が滞ってしまったり従業員のモチベーションが下がったりするようなことになりかねません。
DXにおいては「急がば回れ」であり、少しずつ業務を変革して効率化してゆくことが求められます。「DXにより後々は負担が軽減する」という成功体験を増やし、少しずつ展開していくべきでしょう。
DX失敗事例
DXに取り組んでみたものの、失敗した事例はいくつもあるため、それらのうち同じ失敗に陥る可能性があるものをピックアップして紹介します。
P&G社(アメリカ本社):具体的な目標なきDXの推進
P&Gのアメリカ本社は、2013年と比較的早い段階から、データ活用を軸としたDXの推進を進めました。しかし、大規模な投資をおこなったにも関わらず、DXの効果は限定的であり、当時のCEOは経営責任を問われることになりました。
このDXが失敗した背景には、具体的な目的なく「データを活用すれば売上の向上につながる」と判断したことにあります。どのデータをどのように活用するか決まっていなかったため、DXを推進しても現場はデータを活かせませんでした。DXを推進する際は、目的や目標を明確にし、また従業員など現場の理解を得ておかなければならないと示す事例です。
General Electric:同時に大量のDXプロジェクトを展開
アメリカのGeneral Electricは、産業用ソフトウェアやデータを活用する事業として、IoTプラットフォームの構築を推進しました。2020年にかけて莫大な資金を投資し、世界でも有数の「DXに成功した企業」になる予定でしたが、実際には失敗に終わっています。
このプロジェクトが失敗した理由は、同時に大量のDXプロジェクトを展開したことです。多くの分野へと同時に手を出したことで、それぞれのプロジェクト間で軋轢が生まれてしまいました。また、同時に多くのDXを進めたことで、従業員の成功体験が少なく、協力的でなかったことも理由だと考えられます。DXはスモールスタートが重要かつ、成功体験に基づいた従業員の協力を仰ぐことの重要さを示す事例です。
Ford:業務部門を置き去りにしたDX
自動車会社大手のFordは、DX推進に関する子会社を設立し、デジタル自動車を開発しようとしましたが、失敗した過去を持っています。莫大な損失を計上し、親会社の株価も大幅に下落してしまいました。
失敗の大きな要因は、DXの推進を業務部門と完全に切り離してしまったことです。現場とのコミュニケーションをほぼ取らず、経営陣やIT部門の担当者のイメージだけでDXを進めた結果、現場では使い勝手の悪いシステムが完成してしまいました。DXは経営陣が主体で進めるべきときもありますが、業務部門と密に連携し、要望を吸い上げなければなりません。
小売店:会社としてのビジョンを持たない目標設定
複数の小売店を持つこちらの会社はDXを推進し、いくつかの施策を並行して推進していましたが、大きな効果が発揮できていませんでした。最終的に、DXは最小限に抑えてしまい、多くの無駄が生じてしまったのです。
失敗の理由は「DX化したから◎◎円は売れるだろう」「業務が◎◎時間改善されるだろう」と数値目標のみを設定してしまったことです。会社としての現状やビジョンを踏まえたものではなく「先行投資したため、この程度の効果はないと困る」という考えで目標を設定してしまいました。結果、数値を達成するためだけのDXになってしまい「業務を改善する」という本質的な部分が失敗に終わりました。
DXを成功させるためのコツ
DXを成功させるためのコツを解説します。
現状の把握
現状を正しく把握することで、DXを成功に導きやすくなります。DXは「業務の変革」を目的としたものであるため、現状を把握しなければどのような問題が生じているか、どこを変革すべきかの判断ができません。
把握する対象としては「人材の状況」「会社のノウハウや保有する技術」「生産性」「業務上のリスク」など数多く考えられます。いくつもの観点から把握しておくことで、どの部分を軸にDXへと取り組めば良いか評価できるようになるでしょう。
なお、複数の課題が現場になった場合は「どの課題から着手するか」と優先順位を定めるようにしましょう。全てを同時に進めようとすると、スモールスタートできなくなり、DXが失敗する原因となりかねません。
ビジョンの明確化や共有
DXを通じてどのような変革を実現したいか「ビジョン」を明確にしたり従業員に共有したりしましょう。これを伝えなければ、なぜDXを推進するかの理解が得られなくなってしまい、変革に対する反発が生まれてしまう可能性があります。
例えば「DXにより働き方改革を実現し、ワークライフバランスの改善を目指す」などとビジョンを定めれば、従業員からも理解を得られやすいでしょう。協力することで、自分自身の生活に良い影響を与えることが明確であり、モチベーションも高めやすくなります。会社が従業員にどのような価値を提供できるのか、あるいは従業員から顧客へどのような価値を提供できるようになるのかを示すことが大切です。
市場の動向を踏まえる
社内の状況だけではなく、市場の動向を踏まえるようにすることが理想的です。事業環境についての情報を収集しなければ「トレンドに沿っていないDX」となってしまうかもしれません。
例えば、近年はリモートワークを採用する企業とリモートワークを廃止する企業のどちらも存在するようになってきました。もし、クライアントがリモートワークを廃止し、出社することや対面での取引に重きを置いているならば、それに対応できるようなDXを推進することが望ましいでしょう。案として、可能な限りクラウド上で提案などの資料を管理したり、契約手続きを進めたりできるようにします。こうすることで、対面でも簡単にクラウドから資料を見せることができ、説明したり共有できたりするようになり、なおかつオンラインでスムーズに契約を締結してもらうことも可能です。
これは一例ですが、競合他社や取引先など、市場の動向を踏まえることは非常に重要です。社内という狭い視野だけで評価しないように心がけましょう。
社内環境の整備
DXを推進するためには、環境整備にも力を入れなければならない場合があります。例えば、コンピューターの数が不足しているならば、新しく手配しなければなりません。また、社内のネットワークを強化するために、工事が必要になることも考えられます。
事前にこのような整備を済ませておかなければ、DXを推進する過程で課題が噴出することになりかねません。端末が不足していては従業員に使い方を説明できず、ネットワークが重くてはシステムに繋がらないのです。時には専門家を交え、環境面で整備が必要ないかなど評価してもらうことをおすすめします。
人材の確保
DXに失敗する理由でも触れたように、適切な人材を確保できなければDXは推進できません。社内で確保できることが理想的ですが、難しい場合はDXを取り扱うベンダーに協力を依頼しましょう。専門家不在でDXを進めることは、特別な理由がない限り避けなければなりません。
なお、時間的に余裕があるならば、優秀な人材を採用したり内部で少しずつ教育したりする選択肢もあります。逆に、時間に余裕がなく素早く進めたいならば、ベンダーにアウトソーシングする前提に考えましょう。
DX成功事例
DXの成功事例のうち、経済産業省が2023年のDXセレクションとしてピックアップしたものを参考に紹介します。
株式会社フジワラテクノアート:データの見える化や活用
醸造食品を製造する機器メーカーであるフジワラテクノアートは、2050年を見据えたDXを推進し成功した事例として経済産業省から表彰されています。
全体としては業務プロセスの根本的な改善と調達業務における紙の削減、案件の進捗可視化などが進められています。結果、今までは手作業であったデータの入力処理が自動化され残業時間が大幅に削減、案件の可視化によって遅れが発生せずクレームが減少、などの効果を生み出しました。また、社内での人材育成にも力を入れ、DX人材を排出している状況です。加えて、サプライチェーンを巻き込んだデータを活用し、製品・サービスの品質向上にも取り組んでいます。
株式会社土屋合成:安定した製造を続ける工場の実現
プラスチック製品製造業の株式会社土屋合成は、DXを推進し、少ない人数で24時間365日、効率よく工場を稼働させられるようにし、「24時間停まらない工場」を成功させました。
DXの軸は、データを必要なときに、部門を超えて全社的に活用できるようにしたことです。システムを導入したり業務プロセスを見直したりすることで、常に新しい製品の製造などに工場を活用できるようになりました。
ただ、DXを推進する際には、従業員から「自分の仕事が奪われるのではないか」と反発があった事例でもあります。これに対してはスモールスタートを徹底し、DXによって業務が改善され、今まで以上にやりがいのある仕事に注力できるという成功体験によって解決しました。
グランド印刷株式会社:蓄積されたデータから新事業の創出
印刷業のグランド印刷株式会社は、DX推進による業務の効率化・省力化および、蓄積されたデータによる新事業の創出に成功しました。また、シナジー効果の期待できる事業をデジタルによって統合し、それぞれが相互に影響し合う環境も構築できています。
DXの実現に向けて、まずは基幹システムの導入と開発を実行しました。大規模なシステムとなり、コスト面で大きな負担が生じましたが、先行投資と思い切った結果、DXに成功しています。
基幹システムを導入したことで、業務効率が高まり、有給の取得や業務の中抜けなどがし易い体制が整いました。また、副次的な効果として、蓄積されたデータを分析することで新事業のアイデアが生み出されるようになっています。
池田食品株式会社:DXに適した風土づくりからスタートしたデジタル化
食品製造業である池田食品株式会社は、DXを推進するために風土づくりから着手したことでプロジェクトが成功しました。昭和時代の経営者や従業員が多く居たため、ITを使いこなせる人材の育成なども進めることで、DXに成功した事例です。
導入したシステムは一般的な基幹システムであり、この点では特筆すべき部分はありません。しかし、社内では部門ごとに古くから根付いていた考え方を改めシステムで統一したという点で経済産業省から評価されています。社長をトップとしてデジタル化プロジェクトチームを組成し、自らDXについての研修に参加してスキルアップ、徹底的なトップダウンでDXを成功させました。
まとめ
これからの時代、多くの中小企業がDXを推進する必要があります。ただ、中小企業がDXに失敗した事例は多く、その原因には「経営者の理解不足」「対応できる人材の不在」などがある状況です。また、競合他社の状況などを正しく把握できていないことで、間違った方向にDXが進んでしまうことがあります。
DXを成功させている企業は、データをうまく活用していることが特徴であり、データを活用するためには質の良いデータを多く収集しなければなりません。WebにはDXに活用できる外部データが多くあるため、これらを積極的に収集したり活用したりしましょう。
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