
現在はデータを活用したビジネスの展開が当たり前になっています。皆さんの中にも社内のデータ活用を進めたいと考えている人が多いでしょう。このような考えの基盤になるものがデータ戦略と呼ばれるものです。
名称こそ耳にしたことがあるものの、データ戦略の概要をつかめていない人は多いでしょう。今回はデータ戦略の概要や必要性から、立案することのメリット、具体的なステップ、を解説します。
データ戦略とは
データ戦略とは、組織がデータをどのように収集・管理・活用するかを体系的に定めた方針や計画です。単にデータを蓄積するだけでなく、データを有効活用したビジネスの成長や競争力向上を目的としています。主に、データの収集方法、ストレージ管理、データガバナンス、セキュリティ対策、分析手法、活用方針などが含まれた戦略です。適切なデータ戦略を持つことで、意思決定の精度向上、業務の効率化、新たなビジネス機会の創出などを実現しやすくなります。
データ戦略の必要性
データ戦略は、企業がデータを適切に活用し、競争力を高めるために必要なものです。データの管理や活用が重視されるようになった背景には、DX推進やデータを活用した業務の効率化が求められていることが挙げられます。例えば、DX推進の基盤としてデータの整理・管理を推進し、意思決定の精度を向上させられるような体制を整えるなどです。また、データから業務負荷の状況を洗い出しをすることで業務の効率化をしたり、新たなビジネス機会の創出につなげたりすることも考えられます。
また、データ戦略を準備しておくことで、コストの最適化やAI・BIツールの活用なども促進しやすくなります。総じて、データドリブン経営を下支えする重要な要素となるのです。
データ戦略のメリット
データ戦略を立てるメリットを3つ解説します。
意思決定の精度向上
データ戦略を適切に立案することで、企業は客観的なデータに基づいた意思決定を実現しやすくなります。これにより、従来の経験や勘に頼る判断から脱却できます。リアルタイムで収集・分析されたデータを活用し、より正確で迅速な意思決定に繋げられるのです。また、データの統合や可視化を進めることで、経営層や各部門が必要な情報を直感的に把握できるようになります。これにより、全社的な意思決定、生産性の向上が実現でき、市場での競争力を高められるのです。
顧客体験の向上
データ戦略を活用し、顧客体験の向上を実現できることはメリットです。顧客の行動や嗜好を分析し、パーソナライズされたサービスや製品を提供できるようになります。例えば、購買履歴やアクセスデータに基づいた商品の提案は、顧客満足度を向上させ、リピート率を高めるでしょう。また、リアルタイムのデータを活用できる体制を整えれば、カスタマーサポートの迅速さを高め、顧客の不満を未然に防げるはずです。
競争優位性の獲得
データ戦略を適切に実行することで、競争優位性を獲得しやすくなります。例えば、市場の動向や競合の分析を的確に実施できれば、他社よりも先を見据えた行動を起こしやすくなるのです。新たなビジネス機会を発見したり、差別化された商品やサービスを提供できるようになるでしょう。また、データに基づいて業務プロセスの最適化や自動化を進めることで、コスト削減や生産性向上を実現できる可能性があります。これも中長期的には、競争優位性の獲得に貢献してくれるのです。
データ戦略を立案するステップ
続いては、実際にデータ戦略を立案するステップを解説します。
①ビジネス目標を定める
データ戦略を立案する際は、最初に、企業のビジネス目標を明確にすることが重要です。データを活用する目的が不明確では、適切なデータ収集や分析ができません。できるだけ具体的な目標を設定することで、より成果につなげやすく、効果も評価しやすくなるでしょう。ビジネス目標の例としては、「売上の向上」「業務効率の改善」「顧客満足度の向上」などが考えられます。
また、データ戦略は経営戦略と整合性を持たせることもポイントです。それを踏まえてKPI(重要業績評価指標)を設定すると、データ活用の効果を経営的な目線で評価できるようになります。
②データの現状を把握する
次に、自社のデータの現状を分析し、どのようなデータが蓄積されているのかを確認します。例えば、以下を把握しておきましょう。
- データの種類
- フォーマット
- 保管場所
- 品質
- アクセス権限
把握するだけではなく、不足しているデータや課題を特定することが重要です。特に、データのサイロ化が進んでいる場合、各部門のデータ連携が難しくなってしまいます。そのため、データ統合の必要性を検討しなければなりません。また、欠損や不整合などデータ品質を確認し、評価しておきます。
③データを収集する
ビジネス目標に必要なデータを特定し、効果的に収集する仕組みを整えます。売上、顧客情報、在庫状況などの社内データや、市場データ、競合情報、SNSデータなどの社外データもをデータパイプラインで収集できる仕組みにすることで、より精度の高い分析を実現できます。
またデータを収集する際は、プロセスの標準化や自動化による業務効率化、重複や誤りが生じない仕組みの構築により正確なデータを活用ができるようになります。
④適切なデータ基盤を構築する
データ基盤の構築をおこなうことで、収集したデータの一元管理やデータ活用の環境を整えます。データ活用環境の整備には、データレイクやデータウェアハウスなどのツールを活用します。また、データ基盤を構築する際は、将来的なデータの増加、アクセス管理やセキュリティ対策の強化を考慮することが重要です。大量のデータが集約されるため、機密情報が漏洩するリスクを回避することが非常に大切です。
⑤データ分析・可視化する
データ基盤が構築できたならば、データを分析し可視化していきます。BIツールを活用し、ダッシュボードやレポートを作成します。これにより、意思決定者が直感的にデータを理解できるようになります。なお、データ分析の手法は時系列分析、クラスタリング、機械学習を活用した予測分析などいくつもの選択肢があります。ビジネスの課題を踏まえて、これらから適切なものを選択できるようになりましょう。
⑥分析をもとに施策を実行する
データ分析の結果を踏まえて、具体的な施策を検討し実行していきます。例えば、顧客の購買データからより個人に寄り添ったマーケティング施策を展開することや需要予測を活用して在庫管理を最適化することが可能です。他にも、業務プロセスのボトルネックを特定し、自動化やシステム改善を進めることも可能です。
なお、施策を実行する際には、KPIを設定することを心がけましょう。具体的な数値を用いて施策を評価できれば、データ戦略に効果があったかどうか客観的に評価できます。
⑦PDCAを回し改善策を実行する
データ戦略は一度策定すれば完了するものではなく、継続的に改善することが重要です。施策の成果をデータで評価し、問題点を洗い出しましょう。改善が必要な場合は、データの収集方法や分析手法を見直し、改めてデータ活用に取り組みます。PDCAサイクルを回しながらデータ戦略を改善し、より精度の高いデータ活用を実現しなければなりません。
データ戦略を立てる際によくある課題
データ戦略の立案時に発生しやすいよくある課題と解決策を解説します。
データのサイロ化
データのサイロ化とは、部門や部署などでデータが分断され、相互に活用できない状態です。全社的なデータの一元管理が難しくなり、意思決定の遅れや非効率な業務運用の原因となってしまいます。
解決策としては、データレイクやデータウェアハウスなど、適切なデータ基盤を構築することが挙げられます。異なる部門のデータを統合し、全社的に一元管理できれば、サイロ化を一気に解決できるのです。また、クラウド環境を活用することで、スケーラビリティを確保しつつ、リアルタイムでのデータ共有も実現できます。
従業員のデータ活用に対する抵抗感
データリテラシーの不足や、既存の業務プロセスを変えることへの不安から、データ活用に対して抵抗感を抱く場合があります。これを解決するためには、データ活用の文化を育てなければなりません。例えば、データ活用のメリットを理解してもらう研修やワークショップを実施し、データリテラシーを高めることが考えられます。また、BIツールなどの直感的に使えるツールを導入し、現場での活用を促進してみるなども良いでしょう。
データ戦略の際のポイント
データ戦略を成功させるために、意識したいポイントは以下のとおりです。
データエンジニアを育成する
データ戦略を成功させるためには、データエンジニアの育成が不可欠です。データの収集、処理、分析を適切に実施できる人材を確保していかなければなりません。社内でデータエンジニアを育成することで、ビジネスニーズに即したデータ基盤の構築や、運用を実現しやすくなります。具体的には、SQLやPythonなどのプログラミングスキルやデータベース管理などのスキルを習得させると良いでしょう。また、クラウド技術やデータパイプラインの構築に関連するスキルも習得していると、幅広い分野で活躍してもらうことができます。
データ管理ツールを活用する
膨大なデータを効率的に管理し、活用するためには、適切なデータ管理ツールの導入が重要です。データウェアハウスやBIツール、ETLツールなどを活用し、データの一元管理と可視化を目指しましょう。また、近年はクラウドベースのデータ管理ツールが注目されています。データを連携しておくことで、様々な場所からアクセスしやすくなるため、新たに導入する場合におすすめです。適切なツールを選択することにより、データガバナンスを実現しながら、業務効率化や意思決定の迅速化も実現できます。
外部へ委託する
データ戦略の策定に迅速な対応が求められる場合や、短期間で成果を出す必要がある場合は、外部への委託を検討するとよいでしょう。社内の能力やリソースで対応したいと考えるかもしれませんが、専門知識が必要となるため、適切な役割分担が大切です。データ収集やデータ分析に強みを持つ専門企業に委託すると、データ戦略の策定を効果的に進めることができます。専門企業は豊富な経験やノウハウを持っているため、より的確な分析やデータ戦略の提案が期待できます。
データ戦略で成功した企業の事例
データ戦略で実際に成功した企業の事例を紹介します。
MonotaRO
企業向けECサイトを運営するMonotaROは、データ戦略の一環として、Google Cloud上にデータ基盤と分析ツールを構築しています。具体的には、Google BigQueryを活用し、ユーザーの行動履歴や売上データを分析しています。これにより、分析結果をリアルタイムで確認し、意思決定に役立てています。例えば、独自のアルゴリズムを開発し、科学的根拠に基づいて調達すべき製品やその数量を明確化しています。このデータドリブンなアプローチは、社内のさまざまな部署や担当者にも浸透しており、日々の業務においてもデータに基づく意思決定が行われています。
無印良品(良品計画)
無印良品を展開する良品計画は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の一環としてデータ戦略を策定し、大量のデータの利活用を推進しています。事業拡大に伴い、蓄積された膨大なデータを有効活用するため、Amazon RedshiftやTableau、Treasure Data Serviceといった大規模なデータ分析基盤を導入しました。特にマーケティングや需要予測の分野でデータを活用し、多岐にわたる商品ラインナップの中から適切な在庫を選定するなど、顧客満足度の向上に努めています。
イオン株式会社
小売業大手のイオングループは、DX戦略の一環としてデータ戦略を推進し、多様なデータ活用を進めています。「お客様目線」をキーワードに掲げ、データに基づいたより良いサービス提供を目指しています。自社で収集した顧客の購買データに加え、政府の統計情報やSNSのデータなど外部データも組み合わせ、複数のデータを横断的に解析しています。これにより、より良い顧客体験の提供を実現しています。イオングループのデータ戦略は、本社だけでなくグループ会社や社外のデータにも目を向け、広範なデータ活用を行っている点が特徴です。
ヤマト運輸株式会社
ヤマト運輸は、次世代を見据えたビジネスプランとして経営構造改革プランを掲げ、データドリブン経営への転換を重要な課題解決策と位置づけています。この実現のため、データ戦略を立案し、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進して、各業務からデータを収集できる体制を整えました。歴史ある同社は、従来の古いシステムを刷新し、データのデジタル化を進めています。収集したデータを活用し、顧客体験の向上を目指した分析を開始しました。その結果、社内の人員・車両・倉庫などのリソース状況を正確に把握・可視化できるようになり、予測に基づく車両や人材の適切な配置が可能となりました。これにより、業務の効率化やコスト削減が実現しています。
データ戦略のトレンド
最後に、データ戦略として立案する内容にはどのようなトレンドがあるかを紹介します。
AIを活用したデータ分析
近年はAIの活用が進んでいるため、AIとデータ分析を組み合わせたデータ戦略が増えています。特に自然言語処理を活用したデータ分析がトレンドであり、テキストや音声、あるいは画像から有益なデータを見出そうとしています。これまでは、文章や文字からデータ分析することが主流でしたが、現在は文字データ以外からも新しいインサイトを得ようとしています。様々なデータを分析した情報を活用することで、より正確な意思決定をスムーズに行えるようにするのです。
クラウドベースのデータプラットフォーム
企業がデータを管理するプラットフォームは、オンプレミスからクラウドへとシフトしています。AWSやGoogleCloud、Azureなどの大手クラウドサービスがデータプラットフォームを提供しており、これらの活用に向けたデータ戦略がトレンドです。データを格納するサービスや分析サービスなどが各社で充実しており、スケーラビリティも高いことが注目を集めています。
データガバナンスの強化
データガバナンスの強化を含めたデータ戦略が増えています。現在は企業が取り扱うデータの種類が非常に多くなり、データの適切な管理が求められています。例えば、大量の個人データはパーソナライズされたサービスの提供に有用ですが、適切に管理しなければ個人情報の漏洩が起きかねません。リスクを最小限に抑えるためには、データガバナンスが非常に重要であり、これがデータ戦略のトレンドになってきています。
プライバシー保護やデータセキュリティ
データガバナンスの強化と同時に、プライバシーの保護もトレンド入りするようになってきました。企業が収集する大量のデータにおいて、可能な限りプライバシーに配慮するというものです。例えば、収集したデータには、個人の趣味や嗜好を特定できるものが含まれるかもしれません。このような状況を避けるために、データを匿名化するのです。また、データのアクセス権限を管理するなど、データセキュリティを高め、プライバシーに配慮する動きも見られます。これから新しく収集するデータはもちろんのこと、過去に収集したデータに対しても適用することがポイントです。
リアルタイムデータ処理
市場の急速な変化に対応するため、リアルタイム性を意識したデータ戦略が増えています。様々なデータソースから素早くデータを収集し、速やかに意思決定を下せるようにするのです。意思決定までのスピードが市場での競争力を左右するため、データ戦略の中でも重要な要素となってきました。また、リアルタイム性を求めるという観点から、AIと組み合わせることもトレンドです。他にも、収集されたデータから定期的にレポートを作成するなど、処理の自動化も注目されています。
まとめ
変化の激しい今の時代、意思決定は経験や勘に基づいたものではなく、データに基づかなければなりません。これを実現するためには、データ戦略を立て、トップダウンでデータ活用を推進することが重要です。データ戦略を進める際は、データエンジニアを育成しつつ、専門知識を持った外部パートナーを活用することも重視しなければなりません。
PigDataは、データ活用の専門家として、皆様を多角的に支援しています。各種ツール開発、コンサルティング業務や教育事業など、Webデータ収集・分析領域を中心に、データサイエンス分野における様々なソリューションの提供が可能です。データ戦略やデータ活用に関するご相談は、ぜひPigDataまでお問い合わせください。