セルフストレージ業界のトップランナー、エリアリンク株式会社。
正社員約80名で営業利益約55億円。一人当たり約6,800万円という高い付加価値を生み出しています。さらに、2027年には営業利益65.5億円、2029年には総室数20万室超・シェア24%を見据えており、その成長計画からも同社の勢いがうかがえます。
しかし、エリアリンクの強さは、単に高い生産性や効率のよさだけでは語れません。
その背景には、人を増やして課題を解決するのではなく、仕組みを整えることで成長を支えるという信念があります。
今回、エリアリンク株式会社 ストレージ本部執行役員の倉地様にお話を伺う中で見えてきたのは、少人数経営を“結果”ではなく“前提”として捉える姿勢でした。倉地様は、「少人数経営というのは基本的にDX化が前提にある」と話します。人員を増やして対応するのではなく、データを整え、AIを活用できる仕組みを整えることで、一人ひとりの生産性を高めていく。その考え方が、現在のエリアリンクを支えています。
もっとも、こうした変化は一朝一夕に実現したものではありません。
社内には以前からデータが蓄積されていましたが、必ずしも経営判断に使いやすい形ではなく、現場の勘や経験に支えられた運用も少なくなかったといいます。そこに外部データを取り込み、データ基盤を整え、自社独自のコックピットシステムを進化させることで、AI活用もようやく本格的に動き始めました。
本記事では、倉地様へのインタビューを通して、エリアリンクがどのように少人数経営を磨き上げ、データとAIを成長の土台にしてきたのかをひもといていきます。

目次
80人で55億円。この数字は、ある『信念』から生まれた
高収益の裏にあったのは、“増員しない”という覚悟
現在のエリアリンクを語るとき、まず目を引くのが数字です。
正社員約80名で営業利益約55億円。役員を除く正社員の平均年収は約900万円に達し、年々着実に伸びています。9〜10年前には正社員が120名を超えていましたが、現在はおよそ3分の2の人数になった一方で、利益は大きく伸びています。
ここだけを見ると、「人を絞って利益を出している会社」に見えるかもしれません。ですが、実態は少し違います。エリアリンクが実践しているのは、人を減らすことそのものではなく、人を増やさずに成長できる構造をつくることです。
取材でも倉地様は、少人数経営を会社の前提として何度も口にしていました。エリアリンクでは、少人数経営を続けること自体が経営方針であり、そのためにDXやAI活用が必要になると考えています。「今後も少人数経営は守っていきつつ、より一人当たりの利益を拡大していく」と語る姿勢からも、それが短期的な施策ではなく、経営思想そのものであることがわかります。
またその背景には、林会長の思想も大きく関係しています。
「人を増やすことで経営課題を解決しようとする発想そのものを見直さない限り、その悩みから脱却することはできない」
この考え方は、単なるスローガンではありません。欠員すら“工夫のチャンス”と捉え、仕組みで乗り越えることを続けてきたからこそ、少人数でも成長できる会社になったのです。
もちろん、その分一人ひとりにかかる責任は重くなります。
倉地様も、少人数経営について「一人一人の動きが会社の業績にダイレクトに伝わる」と話していました。裁量が大きい一方で、忙しさも責任もある。だからこそ、感覚だけで回る組織では持ちません。ここから先の成長には、判断を支える仕組みが必要だったのです。
中期経営計画でも、その方向性は明確です。
2027年に営業利益65.5億円、2029年には総室数20万室超を目指す中で、差別化戦略の中核に置かれているのが、全国データベースを活用した「出店精度の向上」です。
つまり、いまの高収益は偶然ではありません。少人数経営を守るために、データを整え、AIを使える会社へ変わってきた結果なのです。

データはあった。でも、誰も使えなかった。
拡大の裏で顕在化した属人化の限界
もっとも、エリアリンクが最初から“データに強い会社”だったわけではありません。
むしろ印象的だったのは、取材の中で語られた「データはあったけれど、誰も使いこなせていなかった」というリアルな課題です。
稼働率、価格、申込件数、解約件数など、自社の基幹システムにはさまざまなデータが蓄積されていました。ですが、それらは主にオペレーション向けのもので、顧客分析や収益分析に使いやすい形にはなっていませんでした。担当者が変われば構造も変わる。部署異動があれば引き継ぎが難しい。いわば“スーパー人間”がなんとかキャッチアップして回している状態で、ノウハウが資産として定着しにくかったのです。
その課題が顕在化したのが、2014年以降の拡大局面でした。
倉地様は、2014年からの時期を「第一次拡大期」と呼びます。年間1万室、300店舗規模で新規出店していた時代です。当時は、とにかく出店目標を達成することが優先でした。しかし2017〜2018年ごろになると、稼働が落ち、収益効率が悪くなる局面が出てきます。出店数だけを追っても、事業全体の成果にはつながらない。そうした違和感が、少しずつ大きくなっていきました。
当時の意思決定も、かなり属人的でした。
周辺競合の調査は、一件ずつ検索して、料金や広さ、部屋数を見ていきます。当時の競合調査は手作業が中心で、見方次第ではエリアの実態を都合よく解釈できてしまう余地もありました。調査結果はPDFの稟議書として保存されることが多く、後から検証しようとすると、再びPDFを開いてExcelに転記し直さなければならない。そうした運用の積み重ねが、判断の属人化や再利用のしづらさにつながっていたのです。
つまり、データがなかったのではなく、データが“使える形”になっていなかったのです。
それが、エリアリンクの出発点でした。
判断の幅を広げた、外部データという視点
そして、ここで効いてきたのが外部データです。
自社データだけでは、自社の内側しか見えません。ですが、出店判断や募集施策を本当に最適化するには、市場相場、人口動態、競合物件の価格帯や稼働状況など、外側の情報が欠かせません。エリアリンクでは、コロナ前ごろから競合データの収集を始め、インディゴデータの支援も受けながら、継続的に外部データを取り込む体制を整えていきました。
結果として、出店判断だけでなく、既存物件の募集施策や価格運用の見直しにも活用が広がっていきます。さらに、データを保有していないパートナー企業に対しても、データに基づいた提案ができるようになり、それ自体が好評を得ています。これは、業界全体で見るとまだデータ活用が進んでいないからこそ、エリアリンクの強みとして際立っている部分でもあります。
自社独自システムであるコックピットシステムの前身として「データを貯める箱」そのものはありました。ですが、それはまだ実用的に使い切れるものではありませんでした。だからこそ、次の転換点では、「どう貯めるか」ではなく「どう整理し、どう判断に使える形へ変えるか」が重要になっていったのです。
データが整った瞬間、AI活用が動き出し、人が変わった
AI活用の前に必要だった「データの整理収納」
エリアリンクの変化が本格化したのは、2024年末から2025年にかけてです。
この時期、社内外のさまざまなデータをBigQueryに集約し、AI活用を前提としたデータ基盤整備が一気に進みました。
倉地様は、その理由をかなり明快に語っています。
「AIで身の回りのちょっとした便利なことはある程度改善できてきている。しかし、会社のKPI・KGIにインパクトするようなAI活用を行うためには、そもそもAIに食べさせるデータベースをきっちりしないといけない」
この言葉には、同社の考え方がよく表れています。エリアリンクにとってAIは、流行りの便利ツールではありません。事業に効くAI活用にするために、まずデータを整理収納する。その順番が、最初からはっきりしていたのです。 その中核にあるのが、「コックピットシステム」です。
意思決定を支える「コックピットシステム」
コックピットシステムとは、エリアリンクが独自に整備してきた判断基盤です。社内外のデータを集約し、物件の状態を見える化し、現場が必要な情報にすぐアクセスできるようにすることで、勘ではなくデータで判断する運用を支えています。実際の画面ではTableauやLooker Studioを使い分けながら、物件ごとの異変把握から詳細分析までをカバーしています。
倉地様によれば、コックピットシステムの目的は大きく2つあります。
ひとつは、約3000物件の状態が良くなったのか悪くなったのかを定量的に把握するためのアラート機能です。もうひとつは、BigQueryに集積されたデータを、SQLを書けない現場でもすぐに確認できるようにすることです。新入社員でも使えるレベルまでハードルを下げることで、データを“持つ”だけでなく“使える”状態にしました。 運用面では、物件ごとの詳細分析にTableau、横断的な可視化やプロンプト型の利用にLooker Studioを使い分けています。例えばLooker Studioでは、稼働推移や累計収支を簡単なプロンプト感覚で引き出すことも可能で、将来的にはBIツールを“見に行く”必要すらなくなる世界も見据えています。

“作業する人”から“判断する人”へ
この整備によって変わったのはシステムだけではありません。人の仕事の中身です。
以前は、BigQueryやスプレッドシートから数字を拾い、コピーして広告や施策に反映するのが基本ルートでした。ですが今は違います。倉地様は、「作業ではなくて、頭を使って仕事をするほうに徐々にシフトしてきた」と話していました。これは非常に重要な変化です。データ基盤の整備とは、単に業務が速くなることではありません。現場が、データを集める人から、データをもとに判断する人へ変わることでもあります。
そして、その変化を後押ししたのが、社内で自然発生的に動き出した「データ整備プロジェクト」でした。
このプロジェクトは、外からコンサルが入って一方的に設計したものではありません。自らデータ整備を担う人材が中心になって進んでいきました。倉地様によれば、エリアリンクのテーマは「これからデータを集めること」ではありませんでした。すでに社内に蓄積されていたデータを、どう整形し、どう使いやすい形で格納するかが本質的な課題だったといいます。
さらに、生成AIの活用もここから本格的に現実味を帯びてきます。
エリアリンクでは、Geminiに必要な情報を入力すればセルフストレージのデータが出てくる状態を将来的に目指しているほか、巡回清掃の写真付き報告書をAIで確認できないか、営業がワンクリックで深いデータを提示できないか、といった構想も進めています。注目したいのは、AI活用が議事録作成や提案書作成といった周辺業務の効率化にとどまらず、事業拡大そのものにAIをどう使うかを考えている点です。
使えるデータへの転換点は、外部データにあった
インディゴデータが支援している外部データの収集も、この転換点で一気に意味を持ちはじめました。
ダイナミックプライシング導入では、これまでのように「周辺の他社がいくらか」だけでなく、市場相場、人口動態、地価なども加味した価格判断が可能になりました。倉地様は、これによって「より定量的で、かつ公平な判断で」金額を設定できるようになったと話しています。つまり、今までもデータはあったが、外部データが入ったことで初めて“市場の中の自社”が見えるようになったのです。もともと保有していた自社データに加え、競合や市場に関する外部データを継続的に収集し、社内のデータ基盤に接続することで、コックピットシステムやAI活用の精度を支える土台づくりを後押ししました。
この一連の変化を通じて、エリアリンクは「データを見る会社」から「データで判断する会社」へ変わりました。そして、その先でようやく、AI活用が動き出したのです。

AIが仕事を奪うなら、人間には使命が残る—エリアリンクが描く、データ経営
AIが進んだ先で、人に残る仕事
倉地様は、DXの本質を「自分の仕事をなくすこと」だとおっしゃっていました。そこには、単なる効率化にとどまらず、人が本来向き合うべき仕事に力を注ぐという考え方が表れています。

AIが発展していくなら、なくせる仕事はなくしてよい。むしろなくすくらいの距離感で向き合うべきだ、とおっしゃっていました。ただし、倉地様が本当に重視しているのは、その先にある価値です。その先に本来必要なのは「顧客満足」だとも続けています。世の中には、DXやAI化によって人を削減した、経費を削減したという話は多い一方で、「お客様がすごく便利になった」という話はまだ少ない。だからこそ、セルフストレージ業界のリーディングカンパニーとして、そこをつくるのがエリアリンクの次の課題なのだという考えです。
この思想は、次の10年のビジョンにもつながっています。
エリアリンクは、2029年に総室数20万室超、シェア24%を目指しています。パートナー制度も本格化し、「自社で建てない出店」も広がっていきます。その中で、データ活用の価値はますます大きくなります。出店精度を上げるだけでなく、パートナー企業の物件を預かったときに、事業全体の中でどういう位置にあるのか、自社物件がどこにあるのかを、より正確に伝えられるようにしたい。そのためのデータプラットフォーム化も構想されています。

倉地様は、セルフストレージ業界について「なんとなくでは人は動かない」と話していました。
賃貸を借りるなら、相場情報はすぐ出てきます。一方でセルフストレージは、物件ごとに条件も運用方針も大きく違い、まだ情報の標準化が進んでいません。だからこそ、シェアNo.1企業がどう動くかによって業界全体が変わる。その責任が自社にはある、という認識です。誰が見ても納得できる価格設定や根拠を積み上げ、業界そのものを切り開いていく。それが、エリアリンクの考えるプラットフォーム化であり、使命でもあります。
さらに興味深いのは、そこに「整理収納」という考え方がつながっていることです。
整理収納とは、部屋を片付けることだけではありません。仕事の進め方を整え、何が重要かを見極め、必要なものを必要な形に揃えることです。倉地様は、その考え方がデータ活用にも非常にシナジーがあると語っていました。トランクルーム事業の本質と、データ経営の本質が、ここで重なっています。
少人数でも使命を果たし続ける会社を目指して
少人数経営を実践するエリアリンクでは、管理物件が増えるたびに社員を増やすことはしません。その前提にあるのは、無駄を徹底的に省き、業務を効率化しながら、一人ひとりの生産性を高めていくという考え方です。そのために欠かせないのが、正確で客観的なデータを集め、それを意思決定に活かせる形で整えておくことです。
AI活用もまた、その延長線上にあります。AIが進化するほど、人の役割がなくなるのではなく、むしろ人が担うべき役割は、より明確になっていく。顧客満足を追い求めること、価値判断を担うこと、そして業界を前に進めること。そうした仕事こそが、人に残されるものなのかもしれません。
エリアリンクが描く少人数経営の最終形は、単にデータにより省力化された会社ではなく、少人数であっても使命を果たし続けられる会社です。
その実現に向けて、同社はデータを整え、外部データを取り込み、AIを活用できる仕組みを築いてきました。こうした積み重ねの中にこそ、これからデータ活用・AI活用を進める企業が学ぶべき本質があるのではないでしょうか。


