
今回のPigUPは年間23億3971万個(2022年度)の取扱荷物量を誇るヤマトホールディングス株式会社です。2019年に100周年を迎えたヤマトホールディングス。次の100年に向けて中長期的に取り組む経営構造改革「YAMATO Next 100」を策定しました。これを基に、DX・データドリブン経営に取り組んでいる事例をご紹介します。
・データドリブン経営に向けた構造改革プラン「Yamato Next 100」策定
・データを統合したデータ基盤でリアルタイムデータの活用
・全社員がDX人材になるための教育システムを開始
目次
「運送」から「運創」へ。宅配需要に対応するビジネスプランの策定
スマートフォンの普及、SNSの増加、コロナ禍の巣ごもり需要などの影響もあり、EC需要は年々増加しています。ヤマトホールディングスの主であり国内大手配送会社であるヤマト運輸はその影響を大きく受けていました。
(経済産業省:令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査))
需要の増加は喜ばしいことばかりではありません。ヤマト運輸はすでに全国約21万6000人の社員や約5万4000台の車両というリソースを持っていますが、その配送ネットワークは30年前に整備したものであり、EC需要の増加に伴いドライバー不足などの課題に直面していました。また、配送現場のオペレーションは個人の勘と経験に頼った属人的なものであることも問題となっていました。これを抜本的に解決するため策定されたのが経営構造改革プラン「YAMATO Next 100」です。
「YAMATO Next 100」は13の経営課題をピックアップし、
- お客様、社会のニーズに正面から向き合う経営への転換
- データ・ドリブン経営への転換
- 共創により物流のエコシステムを創出する経営への転換
を基本戦略としています。
さらに3つの事業構造改⾰として、
- 宅急便のデジタルトランスフォーメーション
- ECエコシステムの確⽴3つの基盤構造改⾰
- 法⼈向け物流事業の強化
3つの基盤構造改⾰に
- グループ経営体制の刷新
- データ・ドリブン経営への転換
- サステナビリティの取り組み「環境と社会を組み込んだ経営」
を掲げています。
(参照:Yamato Next 100)
これはヤマトグループがただの宅配会社ではなく、社会インフラの一員として、次の時代も豊かな社会の創造に持続的な貢献を果たす企業となる「運送業」から「運創業」へと変わっていくことを目的とした経営のグランドデザインとなっています。
フィジカルとサイバーの融合
データドリブン経営を支えるデータ基盤の整備からはじめたヤマト運輸。まず、2021年4月から事業会社8社をヤマト運輸に統合し、組織を再編。それに伴い各社のデータを統合したデータ基盤「Yamato Digital Platform」(以下YDP)を構築しました。
YDPはドライバーやトラック、クロネコヤマトメンバーズなどの豊富なフィジカルリソースとそこで生まれるデータをデジタルプラットフォームに吸い上げ、フルタイム連携やデータ一元化など、様々なデータ分析と活用によりクロネコメンバーズの各種提供機能の利便性を向上しています。
宅急便のデジタルトランスフォーメーション
YDPを用いることでリアルタイムに荷物がどこにあるか、顧客が急に受取時間を指定する場合あとどれくらいで届けることができるのか、を把握でき、顧客体験を最適化することができるようになりました。また、荷物の配送状況を30分ごとに更新し、可視化するダッシュボードを作成。ほぼリアルタイムに配送状況を把握し、社員やトラックを再配置できるため、配送の効率化に繋がっています。
他にも宅急便の効率化に向け、ヤマト運輸は2020年からデジタルデータで顧客のニーズにリアルタイムに応える新サービスとして、EC事業者向けの宅配サービス「EAZY」をスタートしています。「EAZY」はECの持続的な成長を実現する「ECエコシステム」の確立に向けてEC利用者・EC事業者・配送事業者の全てをデジタル情報でリアルタイムでつなぐことができます。これにより、通常の対面受け取り以外に、玄関ドア前、自宅宅配BOX、ガスメーターBOX、物置、車庫、自転車のかご、建物内受付/管理人預けなど、多様な指定場所での受け取りに対応することができるようになりました。
これらは、データを一元化し、リアルタイムにデータ活用ができる環境を整えたことによるデジタルトランスフォーメーションといえるでしょう。
(参照:Yamato Next 100)
データドリブン経営への転換
YDPを構築した理由のひとつは顧客体験の最適化、もうひとつはデータドリブン経営への転換でした。データドリブン経営を確立することで、災害やコロナ禍といった予測不能な事態に直面した場合でも、蓄積したデータに基づいた予測モデルの再構築が可能になると考えました。
一例として、これまで勘と経験に頼ってきた現場配置という課題の最適化があります。過去の配送データに加えて、季節ごとのイベントや大手EC事業者のセール情報などを基にYDP上で予測モデルを作成。予測結果は、現場の担当者が使いやすいようにBIツールで可視化。これにより最大3カ月先の業務量を予測でき、社員や車両など経営資源の最適配置ができるようになったとのことです。
データドリブン経営を進めていくにはデジタル基盤の構築だけではできません。分析結果を解釈し、事業部門と一緒に改革を進めていく人材が必要になります。また、ヤマト運輸は専門のDX人材だけでなく、経営層も含めすべての社員のリスキリングを図り、デジタルの素養を習得しなければ、サービスやオペレーションに反映することはできないという考えのもと、「Yamato Digital Academy」をスタートさせています。ヤマト運輸は社員全員がDX人材となることで、企業全体でデータドリブン経営への転換を確実に進めています。
デジタルツイン構想によるさらなる新しい顧客体験を
データドリブン経営を推進していく中、ヤマト運輸の次なる挑戦はデジタルツインの構築と活用。すでにYDPによって確立されたデジタルプラットフォーム上にフィジカルな世界を写し取ったデジタルツインを構築しサイバーレイヤーをつくれば、現実世界に近いかたちでのデータ分析ができます。そこから機械学習を駆使した荷物動向の予測や、時間帯や届ける場所、季節に応じて適切な値付けをするダイナミックプライシングが可能になるとのこと。また、物流ネットワークをダイナミックに変えて、お客さまが「ここで受け取りたい」と思った場所に合わせてルートを決めることで、荷物が届くというよりも生活導線上に欲しいモノが現れるという新しい顧客体験を目指しているようです。
ヤマト運輸が進めるデータ活用はデータと人、企業と企業、企業と顧客をつなぐ社会貢献にも近いものだと感じました。今後もヤマト運輸の活動が運送業界にさらなる発展をみせてくれることに注目です。