
出版業界の仕事は雑誌や本の編集だけにとどまりません。近年ではWeb媒体も増えてきており、コンテンツの二次利用も増えてきています。広告や営業、SNSでの宣伝やECサイトなどでも紙媒体と同様のデータを必要とするケースがあり、必要とされるデータは現在出版しているものだけでなく、時として過去のものも含まれることもあります。
そういった膨大なデータを一元管理するため、集英社が雑誌データを一元管理するプラットフォーム「MDAM(エムダム)」の開発に着手しました。
出版業界の課題
これまでの出版業界のデータは各雑誌や担当者によって、システムもワークフローもバラバラで共通のプラットフォームが存在しませんでした。
例えば、Web媒体に〇〇誌の何号の何ページと××誌の何号の何ページ目のデータがほしい、となればそれぞれの担当者に都度問い合わせる必要がありました。
このような非効率的な仕組みは、これからのデジタル時代に新たなコンテンツサービスを生み出していく上で、大きな障害となっていました。
「MDAM」により雑誌データを一元管理
「データや進捗の共有」と「ワークフローの標準化」。
出版業界の課題を解決すべく、集英社はMDAMの開発に取り組みました。
MDAM(Media Digital Asset Management:エムダム)とは、集英社が中心となって開発を進めた、雑誌データを一元管理するプラットフォームです。具体的には、誌面を構成するテキストデータ、画像データなど、誌面そのもののデータが格納されていて、必要な人が必要なタイミングで必要なファイル形式でアクセスすることができます。ウェブのCMSとも連携でき、本誌の素材をシームレスにウェブに展開するといったことも可能なのだそう。
これらのデータを社内の部署だけではなく、アクセス権限を利用することで、ライターやデザイナー、また校閲者など他社の人でも利用できる仕組みができており、何度もやり取りをする手間も省けるようになりました。
また、キーワードでデータの検索もでき、そのデータをダウンロードする際にはサイズやデータ形式も選べるとのこと。そうすることで、必要なデータを必要なかたちで収集できるようになり、トレンドの変化や過去の実績を知るためのデータとしても、ムック本の素材としても活用できるようになっています。

(参照:DNP「導入後の効果イメージ」)
MDAMによるデータ分析も
MDAMは編集やデザイナーなど、雑誌や本をつくる人のプラットフォームとしてだけでなく、商品企画や開発にとっての分析データプラットフォームにもなり得ます。
実際に、美容系の特集を多く組む雑誌の2018年と2023年のモデルさんの顔データをMDAMから収集しAIに機械学習させ、画像生成AIにその年代の顔画像を生成させることで、その年のトレンドのメイクを可視化させることができたそう。
また、雑誌に掲載されたテキストデータから頻出ワードランキングを作成し、美容業界全体でどのようなワードが頻出されているのかを分析するために、「体のパーツ」「形容詞」「副詞」といった観点でワードを抽出。それぞれ、「肌」「目」、「負けない」「ベタつかない」、「しっかり」「しっとり」などが挙げられました。

(参照:博報堂DY「雑誌DXの新フェーズ MDAM(エムダム)の活用方法とポテンシャル」)
また、雑誌データとSNSのデータを掛け合わせることで、その時の雑誌が生活にどのような影響を与えていたのかを分析。
例えば、「幸せホルモン」というワード。雑誌とX(旧ツイッター)で分析してみると、雑誌で取り上げられた直後にXでバズっていることや、同時期に盛り上がっていることもあり、雑誌での発信を受けて盛り上がっていることがわかります。

(参照:博報堂DY「雑誌DXの新フェーズ MDAM(エムダム)の活用方法とポテンシャル」)
それぞれ雑誌とXで「幸せホルモン」について書かれた記事や投稿をワードクラウドにして分析すると、雑誌ではその効果についてのワードが頻出しているのに対し、Xでは幸せホルモンを分泌させるための身近でできる行動のシェアがされています。

(参照:博報堂DY「雑誌DXの新フェーズ MDAM(エムダム)の活用方法とポテンシャル」)
この結果から、雑誌で投げかけたことに対してSNSで話題になったり、SNSでの盛り上がりを受け、雑誌が取り上げた後に再びSNSで盛り上がるなど、雑誌で取り上げることによって話題のきっかけづくりができることがデータとして証明することができています。
出版DXで「雑誌の価値」を高める
このように、データ分析をするためのデータ収集が仕組みとしてできているMDAMは、今後トレンド予測などの参考にもなり、商品開発に活かすことも可能です。
また、MDAMそのものの活用方法としても、MDAMから外部メディアへのコンテンツ配信や、店頭でのサイネージにMDAMの該当記事を流すなど、広告への転用も考えられます。
商品開発に関しては、MDAMのデータとPOSデータを掛け合わせて分析することで、施策と売上の相関を見るなど、開発そのものだけではなく、PDCAすべてにおいてMDAMの活用が期待されるでしょう。
これらは雑誌の過去データが大量に集まっているからこそできること。
データ収集はPigDataもWebからのデータ収集を行なっておりますが、その精度と量をキープし、活用に最適なかたちにすることは大変な作業です。
データがあるからこそ、新しいコンテンツやマーケティングが生み出せます。
MDAMができたことにより、雑誌データの活用が容易になったことは、雑誌そのものの価値も高めるきっかけとなりそうです。