
今回PigUPがご紹介する企業は約1万5000店舗ものコンビニエンスストアを展開する株式会社ローソン。小売店だからこそ得られる購買者のデータを活用した事例です。
目次
データから購買者の価値観を分類
株式会社ローソンは2015年ごろより、購買履歴と会員別の価値観情報を基とした「価値観に基づいたターゲティング」の実現に向けた取り組みをすすめてきました。例えば、「ご褒美女子」と名付けた価値観グループは「若年層の女性が中心で、自分自身への関心が強く、自分へのご褒美を重視している」として、このような層には特別感を演出した写真映えのするスイーツなどをおすすめする、といった取り組みです。
「価値観に基づいたターゲティング」とは購入履歴や商品などの膨大なデータから、購買者の価値観と購入商品の関係を学習することで、クーポンのデザインや販促、配信、商品開発強化に繋げる取り組みです。
この「価値観の分類」は容易ではなく、分析するためにはID-POSデータや商品マスタ、価値観分類を含む会員マスタなど様々なデータソースを精査し、データマートとして整備する必要がありました。このデータ整備作業に大きな工数がかかり、なかなか分析まで手が回らなかったとのことです。
デジタル人材不足の課題
この工数削減にあたって、担当者はDXが必要不可欠だと考えました。しかしDXを進めるにあたって、多くの企業がデジタル人材不足に悩んでいます。日本においては約76%もの企業がこの問題を感じているといいます。ローソンも同様の課題を抱えていました。

(参照: 経済産業省「デジタル人材育成プラットフォームの取組状況について」)
データマートは、データの変化や、新しいデータの追加、新しい商品のトレンドなど、一度作成したら終わりではなく、継続的にメンテナンスをする必要があります。ターゲティングをより多くの商品へと拡大していく必要がある一方で、外部のデータサイエンティストへ委託すると、柔軟な対応が難しく、またコスト面も課題となっていました。
データサイエンティストと同等!?AIによるデータ分析
この人材不足による課題を解決すべく出した結論が「dotData」の活用でした。dotDataはデータマートを自動生成し、独自のAIによって特微量抽出を自動化してくれます。
まず、その精度を検証すべく、dotDataと大手データ分析コンサル会社のデータサイエンティストに同じ条件を与え、その分析結果をテストしました。その結果、dotDataは一流データサイエンティストと同等の分析結果を得ることができ、さらに人手でのデータ加工をほとんど必要としなかったため導入に至りました。
誰でも活用できることでデータの価値があがる
dotDataはその精度の良さだけではなく、柔軟性や使い勝手の良さを持ち合わせていることが導入最大の決め手だったとのこと。
ローソンは日々1万5000店舗のデータを蓄積しており、「顧客の価値観」として細かく分析するために必要な特微量の抽出とデータマート作成がdotDataで簡単に実現。さらに人的リソースを増やさないために、データ分析に知識がないマーケティング部門担当者でも簡単に使えるという使いやすさを重視していました。
専門家でなくとも分析結果を必要としている人が手軽に分析結果を見れるようになったことで、データの価値も上がり、活用範囲も広がります。誰でもデータ活用できる環境こそがデータ活用をすすめるうえで重要なポイントといえそうです。
最適化された広告デザインで商品購入率12倍に
2021年には大手菓子メーカーロッテが販売する「トッポ」とdotDataで分析したローソン会員の価値観と「トッポ」の購買状況の関係から、デザイナーがそれぞれの価値観に対応した「トッポ」の新商品のためのレシートクーポンを作成しました。次に、出力された価値観の予測スコアに基づいて約20万人の会員を対象にそれぞれの価値観に最適化されたデザインのクーポンを発行しました。
その結果、予測スコアによるターゲティング精度の向上で4倍、価値観に基づくデザインの最適化で3倍と、トータルで購入率が12倍まで向上しています。このことから、データを活用した「価値観によるターゲティング」の有用性が証明されたといえるでしょう。
(参照:https://www.lawson.co.jp/company/news/detail/1442454_2504.html)
外部データとの掛け合わせがカギだった
このシステムを作る際に活用したのは、ローソンが独自で保有していた顧客データだけではなく、株式会社インティメート・マージャーが保有するWeb上の行動履歴とAI技術でした。ローソンが持つ会員の購買データは既存顧客へのリーチはできますが、外部データを活用することで潜在層のユーザーを見つけ出すことが可能となりました。
(参照:https://wisdom.nec.com/ja/feature/ai/2023032801/index.html)
ポストCookie時代に向けた新たなマーケティングプラットフォームづくり
現在、プライバシー保護の観点からCookieの規制が進んでいます。そうなると、リターゲティング広告が難しくなりますが、小売ならではのデータを分析することでCookieの利用が難しくなる「ポストCookie時代」でも消費者のニーズに合った広告を打ち出すことができます。
ポストCookie時代において、消費者のニーズを汲み取るのに重要な小売店の購買データとAIの活用は、ファンづくりを強力にサポートするマーケティングプラットフォームとなるでしょう。
ローソンは今後もデータを活用し、「価値観に基づくターゲティング」を利用したマーケティングを展開予定とのこと。ターゲティング広告のみならず、店舗運営、商品開発や販促活動など、さらなる期待が膨らみます。
ポストCookie時代、小売店のみならずWeb広告を活用しているマーケターは社内で保有しているデータやWeb上にある外部データなど様々なデータやAIを活用することで新たなビジネスへとつながりそうです。