
今回PigUPが注目する企業は伊勢神宮おはらい町で創業110年を誇る老舗飲食店ゑびや。昔ながらの経営を続けてきたゑびやがスクレイピングやBIツールを活用して売り上げ4.8倍を達成した取り組みをご紹介します。
目次
昔ながらの「勘と経験」に頼っていた経営
三重県伊勢市にあるゑびや大食堂は1912年創業の老舗飲食店。DXを導入するまではそろばんでの会計だったり、手書きの帳簿など昔ながらの変わらない方法を続けていました。歴代の勘と経験に頼る経営をしており、「勘と経験」を持つスタッフがいなくなればこの経営を引き継ぐことができず、収益は低空飛行、このままでは経営は厳しい、と感じていました。
そこで現代表取締役を務める小田島氏は「勘や経験だけではなく、データを根拠とした経営」を実践するため、エクセルで来店データを打ち込むなど毎日データをとり、データベース化し、経営データの「見える化」を進めることで、データ活用が加速していきました。
データ活用で無駄を削減
毎日の来店データを取っていく中で、食品ロスが大量にあることに気づいた小田島氏は来店数や各メニューの注文数が予測できれば食品ロスを削減し、無駄のない人員配置ができると考えました。来店予測には販売データだけではなく、気象データや降水量、近隣の宿泊人数など複数のデータを効率よく集め、予測精度の高いAIを開発しました。その結果、約75%もの食品ロスを削減することができました。
また、食品の無駄だけではなく従業員の負担も削除していきました。
IT化することで従来の「おもてなし」ができなくなるのでは、と思いがちですが、IT化することで適切な人員配置をし、効率のよい休暇取得ができるなど従業員の負担を減らすことができます。また、業務上の負担を減らした分商品の提供にスピード感をもたせる、待ち時間を減らすなどお客様の満足度を上げることに成功しました。顧客満足度が上がることは、従業員のモチベーションにも繋がり、結果としてよい経営ができることになります。
属人化していた古いシステムを新しくしていくことはまさに「DX」であり、そうすることでゑびや大食堂は売上4.8倍、利益率10倍という成果をあげました。
DXのカギは「スクレイピング」と「BIツール」
ゑびやが所持している来店状況データ以外にも、来店予測に必要な気象情報などのデータはWebサイトから取得できます。そこで、いくつかのデータが掲載されている誰もが閲覧できるサイトからデータを取得していきました。

(参照:ITビジネスに参入したその理由 cnet Japan)
しかし自分たちの手でデータ収集を行うと、従業員によってかかる時間が違ったり、ミスが発生します。そこでシステム会社に依頼してスクレイピングでWebサイトからのデータ収集を自動化することで、1日1時間ほどかかっていた業務が3分に短縮されました。
上記のようなデータが集まれば、そのデータがどんな意味を持っているのかを分析する必要があります。ゑびやでは分析・可視化できる従業員はいなかったので、BIツールを導入することでデータを可視化しました。
データ分析・可視化ができる「来店予測AI」
従来のBIツールはひとつのデータからひとつの可視化、が基本であったため、複数データから見えるデータの可視化を行いたいとゑびやの小田島氏は考えました。システム会社に協力してもらい、スクレイピングで集めたデータを機械学習させ、分析・可視化ができる「来店予測AI」を開発しました。この来店予測AIは飲食店のみならず、各種店舗経営のために提供されています。

(参照:ゑびやが開発したAI・TOUCH POINT BI)
身近なデータが売上向上のきっかけに
ゑびやは最初からデータを持っているわけではありませんでしたが、「データの収集」「分析・可視化」「AIの開発」と順を追って経営システムを作り上げていくことで利益をあげることに成功しました。ゑびやが収集したデータは特別なものではありません。誰もが普段見ることができるWebサイトなど身近なところにあるデータを活用するだけでも、大きな利益を生み出すのです。
この事例のフローは飲食店だけではなく、全ての業種で同じようなフローをたどることができます。データがないから、と考える企業でもゑびやのようにWebサイトのデータを利用すれば今すぐ大容量のデータを取得することができます。DXというと難しそうと考えるかもしれませんが、身近なところにある膨大で質の高いデータを効率よく収集することが、成功のポイントのひとつでしょう。