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今回のPigUPは九州を中心にホームセンターを展開している株式会社グッデイ(以下グッデイ)です。グッデイは2022年「第1回日本DX大賞」の大規模法人部門において大賞に選ばれました。「勘が鈍るからデータを見るな」と言われるほどデータに基づいていなかった企業が、DX推進企業として注目を集めたデータ活用事例をご紹介します。
経験則に頼っていた時代を変えたい
2008年、グッデイの現社長、柳瀬隆志社長が入社したころは会社のホームページもなく、社員がメールアドレスをもたず、電話とファックスでやり取りをするというDXとはほど遠い状態にあったそうです。しかし、柳瀬社長は経営判断のためにリアルタイムで数字を把握したい、という気持ちがありました。
データはあったけど活用できていなかった
グッデイは北部九州を中心に63店舗(2023年時点)展開しており、90年代中ごろよりPOS、在庫管理、売上管理システムは導入していたものの、データはデータベースに蓄えられたまま活用できていませんでした。活用しようと思うと、データベースから生データを抽出し、Excelのマクロで加工し・・・と手間がかかり、データ分析をする環境が整っていない状態でした。自社のシステム部に依頼をしても、「サーバーを買うと投資が何千万円もかかる」「従来の基幹システムを入れ換えるのは何億円もかかる」と言われ、その投資額を踏み出せずにいました。
手軽に使えるBIツールからはじめる
データを活用した経営を行いたいと思っていたものの、システム投資に何億もかけられないことから手詰まっていたグッデイでしたが、2014年柳瀬社長はBIツール「Tableau」の存在を知りました。Tableauとこれまで蓄積していたデータをつなげてみると、簡単に表やグラフで視覚的にデータを確認できることで直感的に理解しやすく、さらに何のプログラムの知識もいらない便利さに感銘を受けたとのことです。試験的に社長自ら使い方を学び、有志の社員を募って勉強会をつづけました。
その結果、2015年、Tableauと「Google Workspace」を導入することが決定し、データ分析・データ活用を本格的にはじめることになりました。

(参照:J-Net21)
データ分析は有効なコミュニケーションツール
データ分析をはじめる前は社内で数字を見る習慣がなく、何が売れているのか、どんな人が来店しているのか、感覚で判断していましたが、データ分析をしてその場で可視化することで話の齟齬がなくなったとのこと。実際、バレンタインデー商戦で、あるブランドのチョコレートの売れ行きが良いと気付いたスタッフがいました。上司に報告するといぶかし気な反応をされましたが、可視化されたデータで売れ行きが良いことを示すと、上司も即座に納得して売り場強化を進め、販売数をさらに伸ばしたといいます。
経験や勘に頼ると、誰が言ったか、で意思決定が変わってしまいますが、データを基にすることで具体的な議論が可能になるのです。
複数のデータを掛け合わせてより精度の高い分析を
グッデイの分析は、自社で持っていたPOSや社内の人事や会計システムなどのデータを活用していましたが、現在はGoogle Cloudの提供する「Google BigQuery」というデータウェアハウスを使い、社内データと気象データ、市場データ等の外部データを保管し、Tableauを使って分析しています。データを毎日更新し、それぞれ掛け合わせることでより精度の高い分析がすすんでいます。
例えば、「気温が上がると夏物は売れる」という現場の“経験”による予測からAIでの予測モデルへ切り替えを実施。バイヤーの“経験と勘”に頼っていた仕入れが数値化されたことで、2020年夏物の売り上げは前年比24%増、平均在庫は16%マイナスで推移しました。
「人口動静や競合分析を反映した店舗カルテ」「売上のリアルタイム分析」「季節商品の売上予測」など、様々なデータを活用してできる分析のアイデアが膨らんできているようです。
DX成功のカギはスモールスタート
DXの失敗でよくあるのは「AIを使いたい」、「データ分析をしたい」という手段と目的が入れ替わってしまっているパターンです。DX本来の目的は課題解決であり、新規にシステムを構築するよりも安価で手を付けやすいところから始めることが成功のカギだと柳瀬社長は言います。
グッデイはデータ分析・活用に取り組んで以降、業績も向上しています。2015年から5年間で、全体の店舗数がほぼ変わらないにもかかわらず売上高を26%伸ばしました。また、月次売上高の対前年比の成績を主な競合他社と比較しても、2019年秋以降、最上位が続いているとのことです。
データ活用の「発信」をする企業へ
グッデイは自社で培ったデータ活用のノウハウを活かし、同様にデータ活用に悩む企業の支援をすべく2017年からグループ会社のカホエンタープライズで他社に対してデータ活用支援事業を展開しています。データ活用のコンサルティングやデータ分析の代行をはじめ、2021年にはオリジナルの小売企業向けクラウドデータ分析サービス「KOX」を商品化させています。

(参照:KOX)
さらなるデータ活用へ

(参照:J-Net21)
データ分析による経営を成功させたDX企業として知られたグッデイですが、今後はAIなどを活用してさらなるデータ活用をすすめているそう。例えば、使い捨てカイロの販売実績と気象データの関係を学習させたAIに販売予測の結果、1店舗あたりの仕入れ数と販売数の平均誤差を1~2個に抑えたり、仕入れ先から花の状態を画像で送ってもらいAIで自動的に状態のランク付けをすることで、担当者が現地に行く手間が省き、また専門知識のない社員でも仕入れできるよう仕組み化しました。
中小企業でデータはあるがデータ活用がうまくできていない、経験と勘に頼った経営をしている、といった企業は多くいると思います。グッデイの「まずはチャレンジしてみる」「小さな投資からスタートする」という考え方は多くの企業が参考にできるところでしょう。
PigDataはデータ活用に前向きなグッデイのデータ活用による活躍に今後も注目しています。