
イオングループ(以下イオン)は全国に17887店舗、総従業員数59.9万人を抱える小売業を中心としたグループ企業です。カード会員数も5027万人もおり、イオンモールで購買された年間14億件のデータと、全国の店舗で蓄積された「買い物」や「生活」のデータを活用し、イオンでは「買い物体験」を新しい価値として提供するDXプロジェクトに取り組んでいます。
目次
すべての施策をお客様目線で
小売業は、人々の生活と最も密着しているビジネスであるため、イオンではお客さまとの繋がりを一番に考えた事業展開をしています。そのため、AIなどの新しい技術を活用することで、以前にも増してお客さまのことをより深く知り、より良いサービス提供を目指しています。
イオンのDX戦略は「お客さまとの接点をテクノロジーの力で増やす」、「新しい技術で現場のオペレーション業務を効率化していく」、そして「地域・パートナー企業との繋がりにおいてもデジタルシフトを進め、より深いつながりを構築していく」の3つの方向で取り組まれています。
すでにローンチしているサービスでは、リアル店舗におけるサービス「レジゴー」があります。商品のバーコードをスマホでスキャンすることで、レジ待ち時間をなくすことができ、店頭にある専用デバイスだけでなくお客様の持つスマホにインストールすることで使えるようになるなど、利便性が向上しています。

(参照:イオンモール「価値創造戦略」)
あらゆるデータを活用することで顧客体験を向上させる
イオンは最新の技術を用いてデータを収集し、分析することで顧客体験を向上させるデータ活用のビジョンを持っています。
イオンでは、小売事業から得られる顧客のお買い物データはもちろん、300を超えるグループ会社からヘルス&ウエルネス分野の健康関連データや、金融事業などによるさまざまなデータを得ることができます。さらに、場合によっては政府の統計や人流、SNSの情報などの外部データも取得し、様々なデータを紐づけることで横断的に解析することを目指しているとのこと。そうすることで、イオンが第一に大切にしている顧客体験の向上はもちろん、イオンが掲げるDX戦略の2つに関わる「サプライチェーンおよび店舗オペレーションの改善」、「既存ビジネスの拡大」、「新規ビジネスの創出」なども、合わせて実現していくプランを立てています。多くの企業がまずは自社データをどうにか活用しようとしているなか、イオンは外部データも併用して活用することで最先端のDXを実施していると感じます。

(参照:AEON「DX of AEON」)
データ×AIで顧客のニーズを分析
多様なデータを持つイオン。そのうちのひとつである全国各地域のPOSデータは、時系列でトランザクションの量や客単価が把握できます。また、電子マネーやポイントカードの機能を有するWAONカードから取得した、顧客がイオンのどの店舗で購入したかが分かるデータもあり、このふたつのデータから地域別の顧客の趣向が分析できます。

(参照:TECHPLAY「イオングループのDX推進のキーマンたちが語る「イオンDX」の最前線 」)
このデータ分析にはAIが活用されています。グループ各社から上がってくる顧客の購買履歴に属性を加えたデータをAIに分析させ、顧客がどのようなトピックに興味を持っているかを推定し、購買履歴から顧客を理解し、嗜好を分布することができます。そして得られた結果をマーケティングに活かすなど、顧客体験の向上を実現しながら売上向上にも繋げています。

(参照:TECHPLAY「イオングループのDX推進のキーマンたちが語る「イオンDX」の最前線 」)
また、データ×AIの活用で顧客の購買パターンから商品を分類することも実現しています。
例えば、プレミアムマーガリンを購入する顧客は、山形食パンやはちみつなどを購入する傾向がある。それに対して、一般的なマーガリンは角食パンやジャムなど、時短を意識している顧客が多いとの傾向が見られる、といったことがAIの自然言語処理によって分析できています。

(参照:TECHPLAY「イオングループのDX推進のキーマンたちが語る「イオンDX」の最前線 」)
外部データの積極的活用でデータドリブンな商品開発とマーケティングを
自社で多くのデータを持つイオンですが、外部データも積極的に活用しています。
例えば、SNSデータを収集し、重要なトピックやトレンドを抽出。それに感情分析を加えることで、トレンドに則した新商品の開発を行っています。

(参照:TECHPLAY「イオングループのDX推進のキーマンたちが語る「イオンDX」の最前線 」)
さらに、商品に関する各種情報をAIに読ませることで、商品名、セールスコピー、商品説明文を自動生成するAIも開発しました。実際に、自動生成を利用するテストグループ、従来通り担当者が商品名をつくるコントロールグループと、2つのグループで数十商品を選んで実験したところ、前者のテストグループの群への訪問者の方が多かったという結果を出しているそう。人手を減らすことで工数削減を実現し、よりデータドリブンなマーケティングを進めることができています。
中国の最新リテールテックを日本に展開
イオンは中国やASEANにも事業を展開しています。中国事業の担当者は、中国におけるリテールテックを実際にみていると、中国は日本より3~5年デジタルシフトがすすんでいるとのこと。例えば、日本ではまだエコバッグ等を使った買い物バッグを必要としていますが、中国ではスマホひとつあれば、宅配サービスを受けることができ、他にも公共料金の支払いなど生活のあらゆることが完結する仕組みができています。
イオングループではこれら中国の最新リテールテックをグループ全体に展開するために、2019年4月、「Aeon Digital Management Center(DMC)」を設立しました。中国で一足早くすすんでいるデジタルシフトを日本に導入し、日本ならではの上質なサービスを加えることでより良いDXの実現を目指しています。
顧客体験の向上が従業員の業務効率化と繋がっている
イオンのデータ活用の中心となる考えは「顧客体験の向上」です。それに加えてデータを活用することでイオンで働く従業員の業務効率化も進められています。例えば、お客様アプリのみならず、データを活用した従業員向けアプリの開発も進めています。このアプリが実現すれば、これまではハンディタイプの機械やパソコンで確認していた在庫・欠品管理が、手持ちのスマホで可能になり、労働時間の短縮はもちろん、ITリテラシーが低い従業員へのストレス緩和。さらにはロスが短縮されることで、結果として接客時間が増え、顧客満足度アップにつながる効果を期待されています。つまり、データ活用によって従業員の負担が減ることで結果として、顧客にとってよりよい環境を生み出すことができるでしょう。
このように、イオンは自社の持つ多様なデータはもちろん、外部データやAIなど最新の技術の活用によってどんどん未来へ邁進していく気がします。新しいことに挑戦していくイオンでどんな進展がみられるのか、今後のデータ活用にも注目です。