
プロバイオティクス(人体の健康を増進する細菌)飲料のメーカーである日本のヤクルト本社(以下、ヤクルト)は、主力製品である『ヤクルト』をはじめとした乳酸菌飲料を海外でも展開中。ツールを利用して顧客の習慣的購買行動を分析し、オランダでの売上を15~20%も伸ばしました。

(参照:ヤクルト)
2015年度の全世界のヤクルトの売り上げは30億ドルを計上していましたが、ライバル企業である仏Groupe Danoneも2004年からプロバイオティクス飲料を発売しており、ヤクルトは激しい競争に直面していました。
しかしライバルに市場シェアを奪われるどころか、ヤクルトはさらに売り上げを伸ばし続けました。今回PigUpでは、ヤクルトがどのように売上を上昇させたのか、また今の地位を築くために何を行ったのか、ご紹介していきます。
目次
Excel管理からの脱却
ヤクルトでは、売上上昇の要因分析をExcelなどのツールで対応しようとしましたが、分析までの作業に膨大な時間がかかったり、作業ミスが起きたり、また複数のデータソースを統合することができないという課題に直面しました。また、分析のための情報の収集にほとんどの時間が費やされ、ビジネスについて考える余裕が持てない状況でした。
ヤクルトはそんな状況を変えるため調査活動に割り当てる予算を倍増し、マーケットアナリストのEgbert Jan Vierkant氏を迎え入れて、市場のダイナミクスに対する理解を深めることに注力しました。
素早いデータ分析で売上向上
ヤクルトに入社したVierkant氏には、ビジネスインテリジェンス(BI)ソフトウェアである「IBM Coggnos」、統計ソフトとして広く普及している「IBM SPSS Statistics」、独SAPのアナリティクスパッケージ「BusinessObjects」などの利用経験がありました。
当時のスウェーデンの新興企業のTIBCO Spotfire®の営業担当者からアナリティクスパッケージを提案されたVierkant氏は、複雑なプログラミングを行わなくても分析結果をグラフ形式で表示できる分析ツールのSpotfireの機能がヤクルトの課題解決に適切であると感じ、導入を決定しました。

(参照:PRTIMES)
分析ツールのSpotfireの特徴は下記が挙げられます。
- 地域ごとの詳細分析ができる
- すべての小売店の売上トレンドが分かる
分析ツールのSpotfire®は分析結果を瞬時に可視化し、全てのデータを俯瞰しながら様々な切り口でデータの絞り込み・ドリルダウン分析が行えるため、何が売り上げ増に効いており、何が効いていないのか、を素早く見つけることができます。
また、前もって戦略を考える必要がないくらい分析処理スピードが高速で、Excelと比較すると、処理速度は500倍も速く、グラフ作成には数秒しか要しません。
分析ツールのSpotfireを利用することで、売上を急成長させたマーケティング施策を特定することが出来ました。
実際に活用したデータは下記です。
Web上で生成されるデータ
- 広告キャンペーンのデータ
- Google内の検索に関するデータ
- 自社サイトのアクセス数
- メディア上の自社に関する記事のデータ
オフィスや店舗で生成されるデータ
- 商業ブランドの追跡調査
- 小売店からの注文履歴
日常生活の中で生成されるデータ
- 気象データ
これら約2万点にも及ぶデータを分析し、次期のマーケティング施策展開でも活用したところ、売上が更に加速する結果となりました。
手作業で処理をしていたら何年もかかるようなデータですが、分析に特化した外部ツールを使用することでビッグデータの分析と活用を実現しています。
データ活用によって売上が加速した結果は、データ活用を推進しているPigDataとしても関心深い内容です。
購買行動に分析データから分かる意外性とは
ヤクルトが分析ツールのSpotfireを活用したことによる最大の成功例は、通常サイズのヤクルトの7本パックの隣に15本パックを並べると、どちらの商品の売り上げも伸びることを発見したことです。
また、分析によって、ヤクルトのユーザーの多くは主に一人暮らしまたは二人暮らしの高齢者世帯であることが分かりました。さらに統計から、女性客は少しずつ何回かに分けて頻繁に購入しますが、男性客は大量のパックをまとめ買いする傾向にあることも分かったのです。データ分析をしていた中での偶然の発見で、これは非常に意外な事実でした。女性と男性で考えが違い、行動にもそれが出ているのだと、分析データから傾向を掴むことができました。
小売業者との強固なパートナーシップを育む
ヤクルトは日本国内だけで100社以上の販売会社があります。その多くが小売業者です。
以前はパートナーの小売業者と商談を重ねていく中で、売上を上げるためにヤクルトにとって、赤字覚悟となるような価格ディスカウントが必須といったような圧力も受けていました。
しかし、ツールを導入したことで、極端な値下げが売上を上げることには繋がらず、長期的に見ると売り上げ減少の可能性すらあることをデータドリブンに説明することが出来るようになったとのことです。
この実績から数字分析結果を分かり易く、根拠を持って伝えることが重要だと言えるでしょう。
競合に打ち勝つデータ活用
現在、ヤクルトはツールの導入後、細かい分析をしたことで市場の動向を的確に把握することができ、且つ競争上の優位性を築くことができています。ヤクルトのプロダクト数はとても多いので、競合他社に勝つためには、分析するスピードと細かく正確な情報を入手することが求められていました。
ヤクルトは新たなツールを導入し、上手く内部で運用したことによって、スピーディな分析が実現し、競合より早く新しい戦略を打つことで優位性を維持していると考えられます。
そして、優れたビジュアライゼーション(データの可視化)は小売企業とのコミュニケーションを活性化させる結果に。競合他社と比較しても、多くの面でヤクルトは彼らよりも一歩先を行っているでしょう。
データ活用で更なる売上UPを
現在、Vierkant氏は様々なスーパーマーケットやヤクルトの販売店に対して直接販売戦略の指導にあたっています。
ヤクルトの商品は1つのカテゴリの中で商品が100~150点ほどあり、全体の売上を最大化するためにはどの商品をどのくらい陳列するのか、データを基に販売最適化を図っているそうです。
Vierkant氏がヤクルトにもたらしたデータ活用術は、売上増加に大きく貢献したことが分かりました。更なる彼のデータドリブンな分析に期待したいところです。
今後、更に扱うデータが増えていく世の中ですが、今回のヤクルトの事例のようにツールを上手く利用し、データ分析をすすめることで競合他社との優位性を得ることができました。データを活用することがいかに売上を上昇させるために重要か再認識できる事例でした。
今後も分析・検証・改善を繰り返し、更なる売上の増加を見込めるのではと考えています。今後のヤクルトストーリーからPigDataも目が離せません!