
今回PigUPがご紹介する企業は、2025年に100周年を迎える金融会社「野村ホールディングス」です。2019年に未来共創カンパニー(現デジタル・カンパニー)を設立し、資産運用のためのアプリの開発やOMO(Online Merges with Offline)の推進といったデジタル活用を進めている野村ホールディングスのDXに注目しました。
自社の強みがDX推進の壁に
野村グループでは未来創造カンパニー発足以前からデジタル化には取り組んでいたものの、なかなか進まないのが現状でした。その一つの理由として野村證券は実店舗を拠点とした対面での対応を強みとしていたことがあげられます。
デジタル・カンパニー長の池田氏は「例えば、スマホを使えば顧客自身が資産運用を完結できるといった話を社内で提案すると『人員をデジタルに置き換えるのか』といった意見が挙がるなど、デジタル活用と人の位置づけについても社内で見解の相違があった」と語っています。
しかし、野村證券の顧客数は約530万人に対して営業担当者の数は1万人弱。単純計算では一人の営業担当者が対応する顧客数は530人になってしまいます。これは営業担当の負担が大きくなってしまうだけではなく、顧客1人1人に時間をかけられないことで顧客体験の低下が懸念されます。そのためDXの推進は早急に行わなければならない課題の一つでした。
デジタル活用を目的とした組織を設立
こうした従来の課題を乗り越え、野村グループ共通のデジタルサービスの提供に乗り出すために再編されたのがデジタル・カンパニーです。

(参照:野村證券がスマホアプリに力を入れる理由は?―デジタル・カンパニーのキーマンが語るデジタル戦略)
デジタルカンパニーは課題解決に向けて、資産管理アプリ「OneStock」、投資情報アプリ「FINTOS!」、資産運用アプリ「NOMURA」、資産情報メッセージアプリ「Follow UP」という4つのアプリの開発・運用をはじめました。これらのスマホアプリのうちOneStockとFollow UPは、AWS(Amazon Web Services)のクラウドサービス上で開発・運用しています。

(参照:野村ホールディングス、証券業の顧客対応の“あるべき姿”をDXで模索)
資産情報メッセージアプリ「Follow UP」は顧客満足度調査の分析結果から誕生したアプリです。「(売買後の)アフターフォローが足りていない」「損失リスク発生時に迅速な連絡がほしい」などの意見を受け開発されました。マーケットの状況をリアルタイムで確認するのが困難な顧客に対し、保有している個別銘柄や日経平均株価など指数の急変動を通知したり、投資信託の運用レポートを提供したりする機能を備えており、保有資産に関するタイムリーな情報提供を通じて顧客の資産運用をサポートすることができるようになりました。またアプリが顧客に広まることで現場で行っていた顧客のフォロー時間が削減され、その時間を新規顧客獲得のためにあてることもできそうです。
アプリストアのコメントや、コールセンターへの問い合わせ内容では、アプリに関する否定的な意見はほとんどなく、営業現場のパートナーからも「もっとこんな機能を追加してほしい」などの要望も多いといい、DXに成功した例と言えるでしょう。
他社との共同開発も
自社内での開発だけではなく、他社との共同開発により生まれたアプリもあります。
「OneStock」は資産の見える化を実現する資産管理アプリで、マネーフォワードとの共同開発により生まれました。

(参照:野村證券『One Stock』)
このアプリにはマネーフォワード社のアカウントアグリゲーション技術が活用されています。このアカウントアグリゲーションとは、APIまたはスクレイピングを用いて、複数の銀行や証券、年金などの口座残高や資産の情報を取得する技術です。
この技術により、ユーザーは本アプリを通じて資産を一元管理をすることが可能に。これまで野村は口座を持っている顧客に対し様々なサービスを提供していましたが、証券会社に口座を持っていないが資産管理に関するニーズを持っている顧客にもアプローチするべきと考えました。そこでマネーフォワード社の複数の資産を把握できる技術と、野村が持っている資産形成についてのノウハウを活かしたアプリ開発がスタートしたのです。
OneStockは現在までに10万以上ダウンロードされユーザーに活用されています。
また、資産運用アプリ「NOMURA」に関して今年の6月に100万ダウンロードを突破したと発表されました。これらは野村が精力的にDXに取り組んだ結果であるといえます。
AIを活用し、更なる顧客体験の実現へ
野村では更なる顧客体験の向上に向け、チャットボットやAIを使ったサービスの導入が始まっています。今後はデータやAIに対する本格的な取り組みを進めていくそう。野村のもともとの強みである、人による営業では顧客一人一人に寄り添った提案を行ってきました。さらにAIを活用することで人と同じように一人一人に合った最適な提案をしてくれるようになります。人を介さないことで営業の負担がさらに減るのはもちろん、顧客にとってもいつでもどこでもサポートしてくれるため、顧客満足度の向上も期待できるでしょう。
失敗を恐れず独自のアプリなどを次々と開発し、積極的にリニューアルし続けている野村ホールディングス。これらのアプリ開発は顧客のニーズを知り、自分たちならどう解決できるかを模索していくという基本的な考え方が根本となっています。この考え方はDXの規模問わずどの企業でも実践できることであり、DXを進める第一歩になるのかもしれませんね。