
PDCAに取って代わる新しいサイクルとして注目を集めている、OODAというメソッドをご存知でしょうか?OODAはアメリカで誕生したメソッドで、テクノロジーの発達によって変化が激しくなった市場や顧客ニーズにも、臨機応変に対応可能です。シリコンバレーを始めとする欧米でも、ビジネスの基本戦略として採用されているほど、現代のビジネス界で生き残るために必要不可欠な考え方といえます。そこで今回は、OODAの概要やメリット・デメリットなどについて、詳しく解説します。この記事を読めば、OODAを取り入れるべき理由について、しっかりと把握可能です。
OODAとは?
OODAとはアメリカで誕生した、ビジネスや学校教育現場などで用いられるメソッドです。近年、PDCAとは異なる考え方であるとして注目を集めており、日本を始め世界のビジネスシーンでも広まりつつあります。
PDCAと比べて状況の即応性に優れているため、変化の早い昨今の市場で、チャンスを掴むために重要な手法であるといえるでしょう。イギリスの国際政治学者であるコリン・グレイらによって、あらゆる分野に適用できる一般理論と評されているメソッドです。次に、OODAが持つ意味や歴史、OODAループについて詳しく解説します。
OODAの歴史
OODAメソッドを提唱したのは、朝鮮戦争時のアメリカ空軍に所属していた、ジョン・ボイド大佐です。元々は朝鮮戦争の空中戦についての洞察を基に、指揮官のあるべき意思決定プロセスを分かりやすく理論化したものでした。ジョン・ボイド大佐はアメリカ軍の戦闘機が、相手よりも劣った性能であったにも関わらず、優れた戦果を出している点に着目しました。自身の経験も基にして洞察を行った結果、決定的な勝因は操縦士の意思決定速度に差があったためであると結論付けたのです。
洞察結果を意思決定過程のプロセスとして一般化し、理論化したものがOODAループ理論です。OODAループ理論はアメリカ空軍を始めとした、世界中の軍隊で採用されているだけでなく、欧米のビジネス界でも基本戦術として採用されています。
OODAの意味
OODAは「ウーダ」と読み、
- Observe(観察)
- Orient(状況判断)
- Decide(意思決定)
- Act(実行)
の頭文字を取った造語です。
目標に至るまでの要素を4つに分割し、4つの過程を繰り返していくことによって、正しい意思決定に繋げていきます。それぞれの過程を簡単に解説すると、Observeは市場や顧客といった相手を、思い込みや予断を排して観察するステップです。
Orientステップでは監察結果に基づいて、状況を判断した上で方向付けを行います。Decideは適切な観察と状況判断の結果に基づいて、今後の具体的な方針や計画を立てるステップです。そしてActステップで、方針や計画に基づいて行動に移ります。上記の流れを1サイクルとして、繰り返して行うのがOODAループです。
何度もサイクルを素早く繰り返していくことによって、数々の施策にスピード感をもって挑戦することが可能になるのです。

OODAループが世界中で注目され、必要とされている理由として、次のような理由が挙げられます。
- PDCAが万能ではない
- ビジネス環境の激しい変化
- AIやSNSの急速な発達
AIやテクノロジーの急速な発展によって、情報技術が飛躍的に発達していき、市場や消費者のニーズの変化も激しくなりました。
変化が激しくなった現代で、時代の波に乗って生き残るためには、迅速な事業判断が欠かせません。素早い事業判断を下すためのメソッドとして、現在OODAが世界中で必要とされているのです。次に、OODAループ理論がビジネス現場で必要とされている理由について、詳しく解説していきます。
そもそもPDCAが万能ではない
PDCAは長い間活用され続けている、優秀かつ実績豊富なメソッドですが、どのような場面でも有効な万能のメソッドではありません。
そもそもPDCAは品質管理や生産管理用のメソッドであり、状況や前提が変化しない環境において最適解を見つけ出すのに適した手法です。
工場などの中長期的な業務改善には適している一方で、昨今のビジネス環境の変化についていく際には適していません。高速PDCAのようにPDCAサイクルを早める方法もありますが、わざわざPDCAに固執するよりも、スピード重視で実績もあるOODAを選択するのが妥当でしょう。いきなりOODAに移行するのが難しい場合には、PDCAを簡略化したPDRを採用するのも手です。もちろん、OODAもPDCAと同じように万能ではないので、適宜使い分けることが大切です。
テクノロジーの進歩によるビジネス環境の激しい変化
近年のテクノロジーの急速な進歩によって、ビジネスを取り巻く環境が激しく変化しているのも、OODAが必要とされている理由として挙げられます。
今まで当たり前だと思ってきたものが、あっという間に新しい常識に上書きされてしまう現代において、緻密な計画よりも迅速な状況判断が重要です。1つの商品やサービスを提供するまでに時間がかかっていると、競合がどんどん増えていき、あっという間に時代遅れとなってしまうでしょう。
また、先発企業として既にシェアを獲得していたとしても、その後に出遅れてしまうと後発企業に市場を取られてしまうケースもあり得ます。変化の激しい時代の流れに乗って生き残るためには、状況判断を素早く行ってチャンスを逃さないことが大切です。変化するビジネス環境の状況を素早く判断するためには、OODAループの導入が欠かせません。
AIやSNSの急速な発達
急速に発達したAIやSNSを有効に活用するためにも、OODAループの手法が必要となります。
様々な業務において、人間の代わりにAIが作業を行える時代になってきていますが、AIに応用できる作業範囲はあくまでも過去のデータがある部分だけです。新しい領域に関しては、AIではなく市場や現場の動きを常に観察している人が、高速で実行をしていかなくてはなりません。
高速で実行をし続けるには、OODAループによるスピード感が必要不可欠です。また、SNSの急速な発達と普及によって、誰でも顧客の情報をリアルタイムに収集できるようになりました。変化した消費者行動に対応して、マーケティングの精度やスピードも向上しています。高速化したマーケティングに置いていかれないためにも、OODAループの導入が必要です。
OODAループの4つのステップ
OODAループを実行するための手順は、次の4ステップです。
①Observe(観察する)
Observeステップではまず、市場や顧客、競合などの対象の観察・調査を行います。現場の担当者自身が観察を行い、生のデータを収集するステップです。現在のビジネス環境では急激な変化が伴いがちなので、つい先日までは需要があったものが、急に別のものに取って代わるというのは珍しくありません。
変化にいち早く気付くには、現場の担当者自身が観察して、生のデータを収集することが大切です。観察・調査を行う上で、過去の経験や従来の常識に囚われないようにすることが重要です。思い込みや予断を排して、目の前の状況をありのまま受け入れることで、的確な状況判断を行えるようになります。
②Orient(状況判断する)
Orientステップでは観察・調査で収集した情報を分析して、どのような状況となっているのかを把握し、行動の方向性を決めていきます。以上でスクレイピングを行うための環境が整います。自身がこれまでに培ってきた経験やアイデアを基に、行動すべき順序や成果に繋がる手段を考え、実行すべき施策の仮説を立てていくステップです。
例えば、競合している他社が全国展開をするべく、拠点を増やしていくという情報を入手したとします。入手した情報を分析すると、既存エリアが手薄になっていて、シェアを奪えるチャンスの状況なのかもしれないという仮説を導けるでしょう。といったように、データを基にした仮説を立てていきながら、どのような方向に舵を取っていくのか決めていきます。
③Decide(意思決定する)
Decideステップでは立てた仮説を基に、どのような行動を取っていくのか、具体的な方針や計画を決めていきます。
例えば、既存エリアが手薄になってシェアを奪えるチャンスであるという仮説を立てたのなら、他社の既存エリアへの営業を実施する施策を提案できるでしょう。
もし複数の仮説があった場合には、目的に応じて達成するために最適な仮説を選択し、施策を提案します。注意点としては、PDCAのように何回も繰り返して最適解を得ることを前提にする、あるいはコストを無駄にしないように入念にといった考え方をしないことです。OODAループは刻一刻と変わる環境に対して即応で成果を出す手法なので、最善と思える行動を即座に取って最大限の効果を出すという思考で取り組みましょう。
④Act(実行する)
Actステップでは今までのステップで決めてきたことを実行に移しながら、次回ループのObserveも同時に行います。計画に従って実行に移れば、結果とともに変化か生じるので、どのような変化が起きたのか観察して次のループに移ります。
例えば、他社の既存エリアへの営業を実施した場合、結果として成約率は高くなかったが他社のアプローチが減っているという事実を確認できました。アプローチが減っている事実を基に、次のループでより成約率を伸ばしていくための施策を検討して実行に移っていきます。OODAループを何度も繰り返していくことで、より大きな成果が期待できるでしょう。
OODAを取り入れやすい業務とは
OODAは現在、政治やビジネスなど様々なジャンルで成果を出しており、特に新規事業の立ち上げといった先を見通しにくい場合に有効な手法です。
元々は戦闘機のパイロットの意思決定を対象としたものでしたが、軍事全般で活用されるようになっただけでなく、民間企業でも活用されるようになりました。
シリコンバレーを始めとする欧米のビジネス界でも基本戦略として採用され、アメリカのビジネススクールでも教えられています。マーケティングや営業、商品開発などにもOODAループの思考法を採用している企業が増えています。一方で、PDCAも業務形態によっては多くのニーズで適合するビジネスメソッドなので、場合によって使い分けるようにしましょう。
OODAのメリット
OODAを企業に導入するメリットとして、次のような点が挙げられます。
- 問題への素早い対応
- 行動指針の決定への活用
- 自分で考える組織作り
OODAはPDCAとは違い、上司や上層部の計画立案を待たずに行動するので、現場の状況に合わせた臨機応変な対応をしやすいというのが特徴です。
時間をかけて立てた計画が時間経過と共に、市場の変化に合わなくなって頓挫してしまうリスクを減らせるほか、タイムロスも発生しにくくなります。刻一刻と変化していく市場や顧客のニーズに合わせて、新商品やサービスの提供も実施しやすくなるでしょう。次に、OODAを実施する上でのそれぞれのメリットについて、解説します。
問題に素早く対応できる
OODAループを活用すれば、発生した問題を把握した上で、先延ばしせずスピーディーに対応することができます。上層部ではなく現場の人間で問題解決に向けて、その場の状況に応じた迅速かつ柔軟な行動や意思決定ができるようになります。
OODAループを標準化していけば、従業員1人1人が臨機応変に動けるように意識が定着していくでしょう。情報の収集やデータの集計といった、観察を基に何をすべきか判断する思考回路が浸透していけば、顧客のニーズや不備も社員それぞれで素早くキャッチできます。問題に素早く対応できるようになれば、予想外のことが発生しても迅速に行動できるようになるでしょう。
行動指針を決めるのに役立つ
OODAは最初に目標を決める必要がないので、行動指針を素早く決定した上で、実行に移りたい時に役立ちます。PDCAでは最初に目標を定めた上で具体的な計画を立てるところから始まるので、中長期的な業務改善には適していますが、激しい変化には弱いです。
OODAの場合、市場で起こっている事象を観察することからスタートするので、その場の状況に合わせてスピーディーに対応できます。変化の激しい市場や顧客のニーズを捉えやすいので、新規事業の立ち上げや商品開発を行う際の行動指針に最適です。また、OODAだと思い込みや予断を排して意思決定を行うので、斬新なアイデアが生まれやすいのも新規プロジェクトの立ち上げに向いている点でしょう。
自分で考える組織づくりができる
OODAは個人や集団といった小規模単位での行動が基本となるので、上からの指示を待たずとも、従業員1人1人が自分の裁量で判断・行動できるようになります。
1人1人が持つ裁量が大きくなれば、伴って負うべき責任も大きくなるので、生産性の向上にも期待できるようになるでしょう。また、1人1人が通常の業務フローやマニュアルにない対応も可能になり、イレギュラーな事態が発生しても対応してスムーズに仕事が進むようになります。
OODAのデメリット
OODAはPDCAの次に流行するかもしれないメソッドとして注目を集めていますが、もちろんデメリットも存在します。OODAを導入する上で、考えられるデメリットは次の通りです。
- 思い付きで行動しやすい
- 知識や経験が共有されにくい
- 中長期の計画には向かない
OODAは個人や集団が自ら考えて行動することを促すメソッドなので、最初から上手く回していくのは難しいでしょう。
また、なんにでも対応できる万能のメソッドではないので、何も考えずに導入してしまうと失敗してしまう可能性が高いです。次にそれぞれのデメリットについて解説するので、導入する際の検討材料としてください。
思い付きで行動しやすい
OODAの場合、最初に目的を決めて具体的な計画を立てないので、思い付きによる行動を増長しやすいというデメリットがあります。PDCAは最初に具体的に計画を立てた上で、計画に沿って行動を行うので、組織全体の統制がしやすいです。行動した結果の検証も十分な時間を取って行われるので、無駄であったり、余計な行動を取ってしまうリスクを抑えられます。
一方でOODAは機動性を重視した、個人や集団が 考えた行動を促すメソッドなので、思い付きによる行動が発生してしまいやすいです。思い付きで行動すると、全体の目的から方向性がぶれてしまうこともあるので、コミュニケーションを取るなどして目標がぶれないようにしなければなりません。
知識や経験が共有されにくい
OODAでは基本的に、実行した結果のデータが残らず共有もされないので、暗黙知が発生してしまうデメリットもあります。PDCAは計画から実行、実行した結果の検証までデータとして記録するので、これまで実施してきたPDCAを知識や経験として蓄積可能です。蓄積された知識や経験を次のPDCAに活かせば、同じ失敗をしてしまうというリスクを削減できるでしょう。
しかし、OODAは状況に応じたスピーディーな行動を重視しているので、検証にかける時間を十分に確保しにくいです。計画を実行した結果、なぜこのような結果が出たのか精査できないので、知識や経験としてデータに残らず共有されません。過去の失敗例を基にして計画するプロセスもないので、最初の所見が間違っていたとしても、見落としてしまう可能性が高いです。
あくまでも状況を観察した結果の仮説を基に行動するメソッドなので、これまでの知識や経験が活かされず、失敗を繰り返してしまうリスクがあります。
中長期にわたる計画には向かない
OODAには検証や修正といった効果測定を行うステップがないので、中長期的な業務改善を行う計画には向いていません。PDCAは1サイクルごとに実行した結果を検証するステップがあるので、次のサイクルには反省を活かした計画を立てられます。
時間はかかってしまいやすいですが、確実に改善へ繋げられるのがPDCAなのです。対してOODAの場合、発生している状況に対して仮説を立てて行動するメソッドなので、業務や既存のサービスなどの改善には向いていません。瞬発力が求められない改善計画だと、じっくりでも確実に改善することが求められるので、機動性重視のOODAでは適用するのは難しいでしょう。
OODAを取り入れる際の注意点
上述したメリットやデメリットを踏まえた上で、OODAを企業に取り入れる際は次のような点に注意するとよいでしょう。
- 理念や目標の共有
- 仮説の立案
- チーム内での振り返り
現代の変化の激しい市場や顧客のニーズに対応して生き残るには、OODAの考え方を取り入れることは必要不可欠といえます。しかし、ただ単にOODAを取り入れることをアナウンスするだけでは、上手に活用するのは難しいです。次に挙げる注意点をしっかりと押さえた上で、適切なケースで活用するようにしてください。
理念や目標を共有する
OODAを効果的に活用するために重要とされているのが、OODAループを回す理念や目標を従業員全体で共有することです。OODAは最初に具体的な計画を立てないことで、スピード感のある実行を可能としていますが、思い付きで行動するとあらぬ方法へ向かってしまいます。
各従業員が会社や組織の目指す理念や目標を共有できていれば、OODAループをより効果的に活用できるようになるでしょう。実現するためには、OODAメソッドを取り入れるだけでなく、企業風土や組織体制などの変革も必要です。
仮説を立てる
OODAを実行する前に、「今市場や顧客が求めるニーズは何か」といったような課題に対して、仮説を立てましょう。立てた仮説の中から簡単に実行可能なものを選び、実行してみます。実行した結果の反応を観察すれば、きちんと根拠が伴った有益な情報を獲得できるので、より効果的なOODAループを実現できるでしょう。
チーム内で振り返りの機会をつくる
OODAを取り入れる時には、定期的にチーム内で考え方やアプローチの方法などについて、振り返ることができる機会を設けるとよいでしょう。
OODAは機動性を重視したメソッドですが、思い込みや勘違いを防ぐための振り返る機会を設けられれば、方向性のぶれが抑えられて精度が向上します。また、市場や自社の状況を客観的な数値データとして出してくれる、CRM/SFAなどを活用すればより効果的です。
まとめ
OODAの概要や取り入れるメリット・デメリット、注意点などについて解説しました。IT技術などの発達によって、市場や顧客ニーズの変化が激しくなった現代において、OODAメソッドを取り入れることは必要不可欠です。
OODAループを取り入れれば、従業員が裁量を持って判断・行動できる組織となり、スピーディーな意思決定が可能になります。しかし、だからといってPDCAはOODAよりも劣っているというわけではありません。OODAの特徴やPDCAとの違いを把握した上で、使い分けながら取り入れることを検討してみてください。